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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十七章:傭兵団の章一
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28・開始1

 シェナン村の門横にある見張り台にいた兵は今、道の向こうからくるであろう敵を待って緊張していた。時折火柱が上がるから徐々に近づいて来ているのは確実である。姿が見えたらすぐに敵の数を確認し、皆に知らせねばならない。だから道の先に意識を集中して凝視する――だが彼のその集中は思ってもみなかった方向から途切れさせられる事になった。


 悲鳴が上がったのは、最初はどこでだったのか。


 彼は咄嗟に振り向いて中を見た。

 先程まで敵襲だと叫ぶ伝令が走り回り、急いで配置につこうと動いていた筈の兵達が何故か足を止めていた。まさか敵が中に入ってきたのかとざわめいているものの、敵がいるという声は聞こえない。ただよく見れば、逃げている一団がいるのが見えた。彼等が悲鳴を上げたのだろうか?

 見張り台に立っている彼は上から見ていたから、当然味方の動きがよく見える。

 逃げている者達は同じ方向に逃げているのではなく、ただその位置から逃げているようだった。だが彼等を追う敵の影は見えない。彼等が逃げた場所にはただ地面があるだけだ。どうみても不可解な状況だったが、次の悲鳴が聞こえた時にその理由が彼には分かった。


 今度は悲鳴と共に、何か小さな影が複数落ちていくのが見えた。

 落ちた箇所にいただろう者達が頭を守って逃げ出した。地面に何かが転がっている。

 更にまた、別の場所でも悲鳴が上がる。そこでも皆頭を抱えて逃げようと動いていた。


「何か飛んできてるっ、頭を守れーーーっ」


 気付いてすぐ、彼は叫んだ。そうすればそれに続く声がする。


「石だ、石が落ちてきてるっ」


 この状況で彼がまず考えたのは、石が何処から飛ばされているかだ。彼はまた外に目を向けて周囲を見た。どこかに投石機が隠してあったのかとそれを探そうとした。もしくは柵のすぐ傍にいつの間にか石投げ部隊が潜んでいたのかと。けれどもそれは見つからない、こちらの死角になるような場所かと彼が思う中、味方からは次々に悲鳴が上がる。状況が分からない者達は頭を抱えて、もしくは盾で頭を守りながら皆バラバラな方向へと逃げようとしていた。


 空はまだ青味がかっていて完全に明るくなってはおらず、石が飛んでくる方向を見定めようと空を見てもよく見えない。けれど彼は気がついた。少なくとも石はくるべき方向から来ていない事を。


 石が落ちているのは主に門の周辺で待機していた者達の上であるから、距離的問題から言って石を投げている場所は門のある正面方向か、そこから左右どちらかにずれた位置からでなくてはならない筈である。けれどその方面を見ても投石をしている連中の姿は見えない、石が飛んでくるのも見えない。

 彼は落ち着いて空を見上げる、そうして今度こそ状況を正確に把握した。


――石は飛んできているんじゃない、空から落ちてきているんだ。


 だがそこで、バラバラに逃げる周囲をかき分けて整然と動く一団がやってきた。


「盾を頭上に、頭を守れっ。盾がないものはなんでもいいから頭の上にかざせ、もしくは屋根がある場所へ行けっ」


 盾を頭上に構えて隊列を作ってやってきたのは昨夜やってきたばかりの第三陣だろう。彼等は西軍の兵ではなく領都の守備兵が混じっているから恰好が少し違う。となれば彼らの言葉はセウルズの指示によるものだ。

 そのおかげかバラバラに逃げていた者達が落ち着きを取り戻し、盾を上に掲げて足を止めていた。


「敵はすぐにくるぞっ、配置につけ、弓隊は門の前へっ、盾持ちは頭上を守ってやれっ」


 盾で頭を守りながらも指示通りに兵達は配置へつこうとする。そこで別の見張り台にいた者の声が聞こえた。


「敵だ、敵が来たぞー」


 彼は急いで道の方を見た。石騒ぎに気を取られている間に敵は思ったよりも近くまでやってきていた。


「敵っ、100弱、先頭に黒い一団、それから破城鎚みえますっ」


 焦って彼は必死に声を上げる。


「少し離れて後方に本隊と思われる部隊っ、こちらは……少なくとも先行部隊の倍以上っ」


 焦るな焦るな――自分に言い聞かせて出来るだけ見える情報を正確に伝えようとする。他の見張り台からも声が上がって、下では頭を守りながらもそれぞれが決められた配置につくため動いていた。

 未だに石が落ちる音は聞こえるし、その度に声も上がる。

 だが先程のように逃げ惑うような音も気配もなく、落ち着いた指示の声がよく聞こえるから問題はないだろう。

 戦闘が始まる前の緊張を感じながらも敵を凝視し、その距離を測る。


 けれど今度はどしゃりと何か、重い物が落ちて潰れたような音に彼は反射的に一瞬振り向いてしまった。


 その時下に見えたそれを、すぐに彼は理解できなかった。

 けれどそれが何か分かった途端、彼は思わず口を押さえた。

 一瞬の静けさの後、周囲から声が上がる。それは悲鳴というより、嫌悪感と驚きで反射的に上げてしまったような奇声とも言える音だ、言葉にさえなっていない。逃げようとするより、逃げられず腰が抜けた者の姿が見えた。


 そこには、地面に飛び散った人の体だったものがあった。


しかしつくづくこの主人公、発想と発言が悪役ぽい……(==。

次回はもうちょっと敵軍の様子を書いてからセイネリア達の方も。

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