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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十七章:傭兵団の章一
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18・はじまり2

 それは、待機中の兵の一人の悲鳴から始まった。


 皆も最初は訳が分からずそちらへ視線を向けただけだった。だがその視界の中で二人目が矢で打ち抜かれたのを見るに至って、各地で焦った声が上がった。


「敵だ、敵襲、敵襲ー!」


 そこから今度は一斉に、木の陰から敵がバラバラと現れて向かってくる。連中は皆黒い恰好をしていて、東軍のサーコートを着ている者はいない。だから最初はその敵の正体が皆分からなかった。反乱軍は偵察部隊を襲ってくる事はないと思っていたから、盗賊の類かと思った者も多かった。


「敵か? 敵なのか?」

「とにかく応戦しろっ、数は多くないっ」


 すっかり休憩状態で偵察というより森の案内をしてもらっている気分だった連中は慌てふためき、急いで剣を抜く。幸い落ち着いて敵を見れば数はさほど多くもないようでこちらの方が多いように見えた。それで落ち着きを取り戻した者が味方にそう声を掛けてこの混乱を収めようとする。

 だが、単純な数だけで安心などしてはいけない。

 どうやら向うはかなりの手練れ揃いらしく、いくらこちらが休憩中で準備が出来ていなかったとはいえ、近場にいた者達はまともに剣を受ける間もなく倒されていた。


「おいっ、どういう事だっ、何故敵が攻撃してきている?!」


 グルバス・バレッカ・サンが焦って周囲を見ている。先程までの偉そうな態度はどうしたと言いたかったが、さすがに彼も自分より上の人間にそんな事を言う程馬鹿ではなかった。


「敵です、早く指揮を。もしくは逃げるのでしたらその指示をお出しください」


 その時、彼の頭の中では耳に挟んだ程度の噂話が思い出されていた。確か、黒の剣傭兵団の長であるセイネリア・クロッセスは全身真っ黒な甲冑を着ていて、それに合わせて他の団員も黒い恰好をしている、と。

 ならば彼等がその黒の剣傭兵団の者なのだろう、と彼は判断する。だがいれば絶対に目立つ筈である全身黒い甲冑に身を包んだ背の高い人物は見えない。つまりセイネリア・クロッセス本人はいないと見ていい。現状存在として目立つのは赤い髪の男だが、確かそういうのが団員にいるというのも聞いた事がある。


「くそっ、撤退だ、撤退しろっ」


 最初は人数的にこちらが上だから建て直せると思っていたサンも、こちらの兵が簡単に倒されていく様を見れば撃退は無理だと思ったらしい。判断自体はまともなだけ、一応は現場の人間だとは思うところだ。

 サンの声を聞いた他の兵が口々に撤退を叫べば、雪崩のようにこちらの偵察部隊の面々は逃げ出す。勿論彼も逃げるつもりだった。ただ比較的敵が出て来た地点から遠いところにいたのもあってすこし余裕があったから、彼は逃げるのにも慎重に、わざと少し遅れて行く事にした。

 なにせここにいる偵察部隊の中で、彼は一番この辺りの地理に詳しい。

 もし逃げた先に罠があった場合でも、彼なら森の中へ逃げて村へ帰る事が可能だ。いや、なんならレナッセ隊の方と合流してから指示を仰ぐ手もある。


 周囲がとにかく全力で逃げる中、彼は前後を確認しつつ走った。

 だがそこで、彼は前方からの悲鳴を聞いた。

 警戒しつつも前に向かえば、逃げている筈の味方が足を止めていた。何があるのか――彼は横へと回り込んで、人の隙間からその先をみようとする。そうして誰かが立ち止まる人間を突き飛ばす勢いで押しのけて先へと走っていった時に、彼は皆が何を見て足を止めたかを理解する事になった。


 そこにはこちらの逃げ道を塞ぐように、全身の装備を黒一色で固めた大柄な騎士が立っていた。

 そして直後に、逃げようと飛び出していった兵がその人物に首を刎ねられた。

 おびただしい量の血しぶきを飛ばして死体が倒れる。その中、その場に立っていた黒い騎士の手には、禍々しい派手な斧刃付きの槍があった。


 彼にはその黒い騎士が何者であるかが分かっていた。だから彼は急いで横へと方向転換をし、森の中へと逃げた。


この辺りの敵サイドの話は名もなき兵の『彼』の視点になります。

次回はセイネリア側の話。

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