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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十七章:傭兵団の章一
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17・はじまり1

 シェナン村に戦力を集めている長子サウディン派の思惑はこうだ。


 トルシアン砦はシェナン村の東、見晴らしの丘と呼ばれている高地にある。そこはディソン森の外れにあるのだが、当然砦として作られているとあって地理的にも攻めにくく守りやすい。反乱軍がそこを拠点としたことで正直なところサウディン派は困っていた。

 砦の構造上、出来ればこちらが砦を攻める戦いはしたくない。

 ただお互い、相手を倒さなければならない理由がある。そして現状、領都にある領主の館を押さえているのがサウディン派であるから、互いに領主の名乗りをしていてもサウディンの派の方が正統性を主張しやすい状態にある。なにせ領都には領内の各地に通知を送るための仕組みが整っているから、こちらからの通達を一方的に領内中へ知らせる事が出来る。当然、首都への報告手段もある。

 つまり、こちらはこのまま武力衝突をしなくても正統性を主張しやすいが、ゼーリエン派の方はさっさと領都を奪わないとどんどん不利になっていく。ゼーリエン派の方が早く戦争を仕掛けてこちらを倒してしまいたい筈なのだ。


 だからサウディン派の上層部は考えた、ならば向うから攻めてきてもらおうと。


 トルシアン砦に近いシェナン村にこちらの陣を引いたのはそれが理由だった。地形的に向こうが領都を目指すならシェナン村近くを通らなくてはならず、そこに敵軍がいれば無視して素通りなど出来る訳がない。もし無視して進もうとしても、向うが砦を出てくれるだけでこちらはずっと戦い易くなるからそこで仕掛ければいい。出来るだけ村から近い位置で戦闘が起これば更にこちらが有利になる。

 と言う事で、シェナン村を要塞化して有利な状態で迎え撃つという方針となったのだ。


 そうして現状のにらみ合いとなった訳である。

 互いが互いに相手から攻めてきて欲しいという、消極的な姿勢がこの状況を作った。

 にらみ合いに入ってから、既に1月近くが過ぎていた。


「しかし反乱軍の連中はとんだ腰抜け揃いだな、いつまで砦に篭っているつもりなんだ? セイネリアとかいう奴も噂程ではないのだろう、戦力に自信があればさっさと砦を出てきて攻めてきている筈だ」


 そうですね、と案内役でもある兵は苦笑いと共にそれに気のない相槌を打つ。案内役をするだけあって彼は第一陣で来ていた兵であるのだが、この男の上から目線のやたら偉そうな言い方にはいい加減嫌になっていた。


 第一陣を率いてきたトルシェイ・ファルヤは確かに現場の人間ではないが、兵は普通に訓練を受けている実戦部隊で別に第二陣で来た連中と立場的には何ら変わる事はない。なのに第二陣で来た連中はどうにもこちらを見下す傾向がある。これは第二陣の指揮官であるバシルマン・グテのせいで、あの男から偵察隊の隊長に指名されたこの男――グルバス・バレッカ・サンもそうだ。やけに偉そうで、こちらが案内してやっているのに勝手に休憩を言いだしたり、他の連中にこちらから聞いたばかりの事をさも自分の知識のように演説したりしていた。


「まぁ先行部隊が悉く戦闘を避けて逃げ回っていたのも原因か。奴らにはまだ危機感というのが足りないのだろう。敵の偵察部隊を潰して追い込んでおけば良かったものを」


 あぁほんとうにうっとおしい、と彼は何もいわず顔を顰めた。

 偵察部隊同士での戦闘を避けて兵力を温存しておくというのも、ちゃんと上が出した方針である。ここまでくると単にこちらを貶めたいために言っているのだとしか思えない。


「では、サン様はもし敵の偵察部隊とぶつかりそうになったら戦うべきだとおっしゃるのですか?」


 だからそう聞いてしまったのは、さすがに今の話で苛立ちが抑えきれなくなったからだ。


「そうだな、最終的には逃げるにしても脅しくらいは掛けて相手を追い詰めておくべきだろう。というかむしろ、こちらから逃げるのではなく相手を追い詰めて逃げ出すさまを見てやればいい」


 あぁこの男は本気でただの脳味噌まで筋肉が詰まった馬鹿だと彼は思った。確かに現場を知らない事務畑の人間が上にいるのは困る事も多いが、トルシェイは自分の専門外には口を出さずに部下に任せてくれるため、この手の現場脳過ぎて思慮のない人間よりはずっとマシである。

 戦場で部隊が壊滅するときというのは、こういう無能なのが指揮官をしている時なのだと彼は心の中で毒づいていた。


 ただ、そうして目の前の男に呆れていた彼も、まさか心の中で毒づいていたそれが即現実になるとは思っていなかった。この男が困るのはこの先のどこかの戦場であって、自分もまきこまれるなんて思いもしていなかったのだ。


次回はこのまま敵さんサイドで続きになります。


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