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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十七章:傭兵団の章一
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11・次男勢力2

 実際会った感覚では、メイゼリンは思った以上に武人気質で雇い主としては普通に信用出来そうではある。ただし、セイネリア側が失敗したり不利な状況を作った場合はすぐに切り捨てるだろう。メイゼリンの父親のバミン卿がキドラサン領で長く東部軍を率いてきたことを考えれば、彼女の性格はまさに武人一家の育ちらしい。それもあって戦闘方面で派手な噂のあるセイネリアの事を相当に買ってくれているらしく、言葉遣いや態度に関しても煩くない辺り他にもいろいろ特別待遇だ。

 一方、息子のゼーリエンに関して言えば、こちらは思ったより落ち着いているように見えた。母親の影響を受けて武人らしい考え方にならず、逆に母親の勢いに疲れて宥め役に回ったか。何にしろ見た目だけではなく中身は実年齢より大人なようだ。


「姉上の事……驚かれたのではないですか? 領主夫人というイメージで来たのなら」


 外に出てすぐ、案内役に任命された男がそう聞いてきてセイネリアは聞き返した。


「姉?」

「はい、私はキディラ・セイ・バミンと申します」

「成程」

「貴方の噂は私もいろいろ聞いています。戦場ではぜひその噂通りの活躍を見せて頂きたいものです」


 言いながら握手を求めてきたキディラの年齢は20歳を過ぎたばかりというところだろう。バミン卿の子ではおそらく一番下だ。


「父も貴方に会いたがっていたのですが……なにしろ、最近腰を痛めまして。姉や兄に屋敷で大人しくしていろと言われてへこんでいました」

「この軍の総指揮はバミン卿では?」

「いえ、総指揮は長兄のオーランです。父は無理矢理引退させられまして、東部指揮官職も兄が継ぎました。……うまくいけば、『東部』だけではなくなりますが」


 末っ子というだけあって、キディラは下の者にも丁寧に話すらしい。その後彼の部下を紹介されたがその時もこの口調だった。


 内乱に入るにあたって、次男のゼーリエンを推す連中は領主の館を離れてバミン卿の館を拠点とした。その後ゼーリエン派は戦力を整えて宣戦布告すると同時に部隊をここトルシアン砦に集めた。一方、長男側は領主の館に残ってそこを拠点としているからこちら側を反乱軍と呼んでいる。だからこそ向こう側に付いたのは古参の官僚達が多く、ゼーリエン側はバミン卿の縁者と付いた官僚は比較的若めの者が多かった。


――武力は五分五分で、官僚の支持に関しては向こうが上だろうな。


 本来なら、バミン卿の役職的にゼーリエン側の方が軍部に顔が利く分武力が上になる筈だが互角になってしまったのには理由がある。

 ここキドラサン領の西軍と東軍は元から仲が悪い。だから西軍は対抗する意味もあって長男の方に付いてしまった。現状では武力も支持も僅かに向こうの方が優勢な上、ゼーリエン側が屋敷を出たため大義名分という点でも向うの方が有利だ。


――いや……武力が五分五分だと、少なくとも向うは思っていないか。


 確かに動員できる兵の数は互角かこちらの方が多少多いとも言えるが、向うには有名な、いわゆるこの領地において英雄視されている人物がいる。病弱だった故キドラサン卿が幼い頃から、護衛と剣の指南役をしてきた人物、セウルズ・クルタ・ロセット・ダンという男だ。勿論現在領主の椅子を争っている兄弟二人も彼が剣の師で、ついでに言えば西軍も東軍も定期的に彼に訓練を見て貰っていた。軍部に所属はしていないが、剣術指南役として長く領主に仕えている。

 セウルズはキドラサンン家の忠臣として、古参の連中と同じく長子が継ぐべきだと思って向うについたと思われる。もしくは、病弱ではないかと心配されている長男に死んだキドラサン卿を重ねて情が湧いたか。


 ともかく、そんな人物が長男側についたからこそ次男であるゼーリエン側はそれに対抗できるような人物を味方に欲しくてセイネリアに依頼してきたという訳だ。

 長男側がそれを知って同じくセイネリアに依頼してきたのは、おそらくはどちらにも付くなという警告の意味があったのだと考えられる。普通の傭兵団なら両陣営から依頼が来た場合、明らかに勝てる方か条件の良い方に付くものだ。どちらが勝つか分からず条件が同じ場合は両方の仕事を受けないという選択が一番無難で、だからこそ長男側は報酬はゼーリエン側と同じだけ出す、と言ってきていたのだろう。


――普通ならどちらも断るだろう、確かにな。


 だが彼等の思惑も、損得勘定さえセイネリアにとってはどうでもいい事だった。

 今回の仕事を受けた理由は一つ、実力も人望もあるというその英雄様と戦いたいからだ。なにせセウルズはただの高名な剣士ではない、アッテラ神官でもあるのだから。


次回はセウルズ側のお話。

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