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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十七章:傭兵団の章一
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6・カリンの立場2

 考えながら訓練場から離れようとしていたカリンは、鍛錬中だった団員が急に慌てた様子で一か所に集まりだしている様子を見て足を止めた。

 顔を向ければすぐにわかる、セイネリアが外に出て来たのだ。更にそこへ一人の団員が出て行って跪き、何かを話しているようだった。

 その団員が、まだ入ってさほど経っていない人間だと分かった段階でカリンはその状況を理解した。そうしてセイネリアがその団員と共に広い場所へと歩き出したのを見てそれを確信すると同時に、カリンも彼等が見える方へと歩いて行った。


「あまり時間を掛けたくない、一本勝負でいいな?」

「はい、ありがとうございます」


 思った通り――と苦笑してしまった通り、腕自慢の新入りがセイネリアに手合わせを申し込んだようだ。

 セイネリアの強さが有名であるからこそ、自分の腕に相当の自信がある者は団に入った後こうして手合わせを申し出る事がよくある。勿論セイネリアがそれを断ることはない。主本人が言うには『俺に直に言ってくるだけでもたいしたものだ』という事で、それだけの人間ならちゃんと相手をしてやるという事だった。カリンもそこは確かにそうだと思っている。なにせ、噂のセイネリアの強さを見てみたいと勇ましく言って入ってくる者は多いが、本人を一度前にすれば大抵の者は剣を合わせる事なく膝を折る。だから確かに、本人に向かって直に声を掛けるだけではなく、その剣を受けたいと言えるのなら相当の度胸があるか自信があるか……ただの馬鹿かのどれかだろう。一応、団員は厳しい基準でふるいにかけているため、最後はまずない筈である。


 実際、セイネリアに手合わせを申し込んだ者は、以後下っ端でもそれなりに使える人間として認められている者ばかりだ。

 そして、彼等は二度とセイネリアに手合わせを願い出る事はない。


「はじめっ」


 セイネリアの傍にいたエルが声を上げる、と同時に新人が前に出た。


「うおぉおっ」


 大声を上げるのは力を込める意味と自分自身を奮い立たせる意味がある。おそらく正面に対峙した時点で、そうしないと踏み出せないくらいの圧を感じていた筈だ。

 新人団員の武器は割合小型の戦斧と盾、自信があるだけあって腕の振りは速いし力強い。ただ当然、セイネリアには当たらない。掠りもしない。斧を何度か振ってまったく当たる気配がないのを察した新人は、今度は盾を前に出して押し込もうとする。セイネリアはそれに数歩下がるが、何度目かの盾を押した動作に合わせてしゃがみながら剣の柄頭ポンメルで盾の左側を叩いた。そうすれば左側が割れると同時に後ろに押され、盾自体が敵に対し平面を見せられず縦になり、防御面積が狭くなる。そこへセイネリアの剣が横へ払われる。防具をつけた腹を叩かれ、そのまま新人は横へ吹っ飛び、地面に転がる。


「ぐがぁあっ」


 悲鳴が上がって新人がのたうちまわるが、あれでもかなり加減をされているのは誰の目にも明白だ。更にいえばおそらく、その新人がなかなかいい銅鎧を着ていたからこそセイネリアはわざとその上を叩いてやったのだろう。


「ほいほい、ちぃっと待ってな」


 エルが傍にいた別の団員を呼んで倒れている男のところへ行く。連れてきた団員に胴鎧を脱がせるように言って治療を始める、この流れも慣れたものだ。


「あとは頼む」

「おうよ」


 セイネリアはそういうとさっさと歩いていく。その前にちらとカリンの方を見たのは分かっていたから、カリンは主を追うように彼が向かったほうに歩き出した。

 残ったエルの方を見れば治癒術を使っている最中で、傍には新人の知り合いらしい者が2人いたが他の連中はさっさと各自の鍛錬に戻っていた。


 普通、誰かが遊びでも勝負していれば周りは野次など飛ばして盛り上がるものである。だがこうして、セイネリアと誰かの試合では周りは盛り上がりはしないしなんの声も飛ばない。なにせ皆、結果が分かっている。惜しいと思うところも、煽るような暇もなく、ただ一方的にセイネリアが勝つのを知っている。

 だから見ている側も盛り上がりようがなく、事務的な感覚になるのだ。


 それは当然、セイネリア自身も。

 カリンは最近、セイネリアが戦っている時に少しでも顔に何か表情を浮かべたのを見た事がなかった。


カリンサイドの状況はこれで終わり。

次回はエル視点で、次の仕事に対しての話し合いです。

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