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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十七章:傭兵団の章一
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4・蛮族間の噂2

「あぁ、試し撃ちと新人教育は出来たからな、以後は砦の戦闘関係は大きい仕事以外は基本無視していいぞ」

「そうだな、そろそろお試し価格も必要ねぇだろうしな」

「そういう事だ」


 新しい傭兵団を立ち上げた場合のお約束として、まずは名前を売るために相場より安め、もしくは同じ金額で多めの人数を出す事がある。セイネリアもこの傭兵団を作ってから今までの仕事はそれに倣って少し多めの人数を出してやっていた。新人教育もあるからこちらとしても損はないし、セイネリアが黒の剣を使うつもりの段階で戦力が適当でもどうでも良かったというのもあった。


「名前は売ったし団としての実績も作ったからな、逆に今度は相場より高めに設定するのを考えてる」


 それにエルは歯をむき出して、シシシ、と笑った。


「そっだよなー、少なくともお前が出る場合はそれくらいやって問題ねぇんじゃね。なにせ見ただけで敵が逃げンだからよ。被害ゼロで終わるんなら倍額払っても惜しくねーだろ」


 傭兵の仕事は基本は日給計算だ。当然仕事が早く終ればそれだけ雇い主は安く済む。頭のいい者ならセイネリアが高くふっかけても早く終わらせてくれるならその方が得だと考るだろう。


「んじゃそろそろ仕事を絞るようにしますかねっと」


 言って立ち上がったエルに、セイネリアは追加で言っておく。


「ただ安くてもヤバそうでも、面白そうな仕事なら俺に一度通せ」


 部屋を出て行こうとしていたエルがそれで立ち止まる。それからおそるおそるといったゆっくりさで振り向くと、訝し気な顔でこちらを見た。


「面白そうって、お前基準だと、なぁ……」

「俺が興味を持ちそうな仕事だ、お前も大体わかるだろ?」


 エルの顔が引きつる、うんざりした顔をして彼は言う。


「わぁった、普通なら絶対断るようなヤバイのは逆に持ってくンよ」

「そうしてくれ」


 それでエルは手をひらひらと振りながら部屋を出ていく。

 傭兵団を作った事で明示的にセイネリアとエルに上下関係が出来はしたが、言葉遣いややりとりは前と別に変わらない。一応人前ではセイネリアの事は他の団員達の手前エルも『マスター』と呼んでくるが、変わったのはそれくらいだ。最初から団にいる人間の前では今まで通り名前で呼んでくる事が多い。


 なにせセイネリアといえば噂でさんざん化け物扱いをされたのもあって、団に入ってきた者でそのセイネリアをなめているような馬鹿はいない。だからいくらエルがセイネリアに対してなれなれしくてもそれでこちらををなめるてくような事はないし、となれば単純にエルの評価が上がるだけだ。副長としてエルには下っ端連中をまとめて貰うつもりだから丁度良い。


 傭兵団は、今のところ順調だった。


 元からセイネリアの名前は有名であったから団としても仕事に困る事はなかった。しかも貴族関連の仕事を多く受けていたというのもあって、セイネリアは貴族達にもかなり名を知られていた。直接知り合いでなくても噂を聞いて声を掛けてくる者は多く、他の団に比べて上層階級の人間――いわゆる上客が多いのも特徴だった。


 ついでに言えば、傭兵団の名の裏で情報屋としても動いていたから、そちら方面からの繋がりもある。傭兵団として冒険者の仕事を受ける裏で、情報屋としてもその仕事に関する情報を提供する――そういう仕事のやり方をしていれば、自然と貴族等富裕層の依頼人が増えていくものだ。

 彼等相手なら多少ふっかけても問題ないし、金よりは信用と仕事の確実性の方が重要だ。そしてそういう連中は、一度でも契約が成立すれば次回もまた声を掛けてくる。

 そういう仕事のやり方をしているから、黒の剣傭兵団は現状、平民の一冒険者が作った傭兵団としては貴族の仕事を一番多く受けている。また情報屋の方も首都では一番の規模を誇るようになっていた。

 勿論これは、設立されて半年ちょっとの新参傭兵団としてはあり得ない早さでその地位を確立したといっていい。だから順調である、それは間違いない。


 ただ単に、それらがセイネリアにとって少しも楽しくない事だけが問題だった。


次回は現状のカリンの話。

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