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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十七章:傭兵団の章一
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3・蛮族間の噂1

 クリュース王国首都セニエティは下から上へと扇形に広がるような街の形をしていて、十字に走る大通りによって4つの区画に分けられていた。

 街の地形が北東から南西に向けてなだらかに下っているようになっているのもあって、東西に走る大通りから北は上区、南は下区と呼ばれる。公共施設や金のある連中の住居は上区にあって、下区は庶民以下の者達が住む区画となる。ただ勿論、下区であっても大通りに近い周辺はそれなりに土地の価値が高く、これは中央区と言われて区別される事もあった。

 逆に下区の中でも東より土地の低い西の区画は特に国内でも貧困層が住んでいて、これは西の下区と呼ばれ、いわゆるスラム街として一般人は行ってはならない危険な場所とされていた。


 そのスラム街の人間を他の区画に出さないためもあって、中央区と西の下区の間には大規模な傭兵団が拠点を作る場合の指定区画があった。規模の小さな傭兵団には特に規制はないが、ある程度以上の規模の傭兵団は首都にはその指定区画にしか拠点を作ってはいけない事とされていた。

 その指定区画内の一角に、上級冒険者セイネリア・クロッセスを長とする黒の剣傭兵団があった。


「おいセイネリア、ちっといいか」


 いつも通り騒がしい足音がしたと思ったら、書類を持った青い髪のアッテラ神官が扉を乱暴に開いてまずそう怒鳴ってきた。


「あぁ、構わないぞ」


 セイネリアがまったく表情を変えずそう返せば、エルは書類をこちらの机の上に置いてからそのまま背伸びをした。


「あーったく、めんどくせー」


 面倒事は全部彼に押し付けているからそれはそうだろう、とセイネリアは思うだけだが、エルはそのまま来客用の椅子に座って足を組むと背もたれに思いきり体重を掛けてこちらを見た。


「んで、今日来た分はそれな。どれも大した仕事じゃねーから、一人それなりに慣れた奴つけてやればあとは誰でも数さえ揃えときゃいいんじゃねってのばかりだ」

「なら、いつも通り人選はお前に任す」

「へーへー、わぁったよ」


 明らかに不満そうな顔をするものの、それはエルの『俺は大変なんだぞ』アピールであって、本気で不満がある訳ではないとセイネリアには分かっていた。毎回毎回こんなやりとりをするが、彼が仕事に手を抜く事はないし、いつも思った通りの成果を出してくれる。……勿論不満レベルではなく懸念事項があって指定通り出来るかどうか分からない時はそう言ってくるから、彼が了解と返しているのなら任せて問題ないという事だ。


「まーさすがに北の国境地帯はそろそろ雪が降り始めるだろうしな、傭兵としての大きい仕事はもう入ってこねぇと思っていいんじゃねーか?」


 エルがくつろぎ切った恰好でそう呟いた。


「少なくとも蛮族共相手の仕事は春までないと思っていいだろうな」

「こんなに早く奴らがこなくなったのはお前が脅し過ぎたからってのもあんだろ、この秋はどこの砦も襲撃ががっつり減ったんだとさ。普通なら冬に入る少し前ってのは蛮族共が頻繁にやってくるもんなんだがよ」

「確かに、剣の調整とはいえやり過ぎたな」

「……はは、思い出すたびに敵が気の毒になるぜ」


 傭兵団を立ち上げて人数がある程度入った段階で、セイネリアは砦の傭兵仕事を3つ程続けて受けた。なにせ新人をまとめて教育をするのに最適であるし、黒の剣の実践調整としても丁度良かったというのがある。

 だが黒の剣の試し撃ちで散々悲惨な目に合わせたのもあって3つ目の仕事では偵察時の戦闘後、砦にやってきた蛮族達はセイネリアが出て行っただけでその名を叫びながら逃げて戦闘終了となった。おそらくはもともとセイネリアという名が一部の蛮族達の間では有名だったのもあるのだろうが、こちらは拍子抜けもいいところ過ぎて砦兵達などは呆然としていたくらいだった。


「思った以上に蛮族共に名前が広がるのが早かったな」

「もともと東の連中にはもう有名だったしなぁ」


 クリュース北東、グローディとザウラの問題の時に蛮族と一時協力関係であったため、あの辺りの蛮族達にはセイネリアの名はこの傭兵団が出来る前から相当有名になっていた。特に対立しがちな蛮族達の中立地帯を仕切っているラギ族とかなり関わってしまったから、名が広まるのが早かったのはあるだろう。一応それもあったから、今回は主に西よりの砦の仕事を受けたのだが、それでもある程度は伝わっていたらしい。不確定な噂だけから実際戦った連中が騒ぎ立てて一気に広まった可能性が高い。


「んじゃまー、そろそろ次の段階ってやつかね」


 エルが座ったまま、また大きく背伸びをした。


現状の傭兵団の状況説明的な話ですね。

この二人のやりとりシーンは次回まで。

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