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黒の主  作者: 沙々音 凛
第一章:始まりの街と森の章
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7・鍛冶屋

 表の露店街からまた少しわき道に入ったところは、いわゆる鍛冶屋街となっていた。

 とはいえ、ここに集まるのはきちんとした店を構えるような有名どころではなく、無名の、ただその分安く仕事を請け負うような者の店ばかりではあった。名のある鍛冶屋になれば出来合いの一番安い剣を買うだけでも一般冒険者には厳しい話で、鎧や剣の打ち直しやオーダーとなれば『金持ち』以外には夢物語と言っても良かった。だから冒険者が武器や鎧を買ったり修理をするとなればここへくるのが常識であった。


 肩に大きな荷物袋を背負って、セイネリアはその鍛冶屋街を歩いていた。ここも基本は露店街で、建物としての店はまずない。セイネリアは通りを歩くいかにも戦士風の冒険者達に混じって、店先に並んだ武器や鎧等を眺めて歩いていた。


「ったくよぉ、ケンナの野郎、俺には剣は売れねぇっていったんだぜ」


 男のよく通る声が聞こえて、セイネリアは足を止める。


「これ見よがしに重そうな剣が飾ってあるからさ、俺が持って楽々振れるとこ見せてやったのに、『お前に剣は勿体ねぇ、ただの鉄の棒でも振り回してろ』だぜ」

「はは、俺は今使ってるナイフ出せっていわれたから見せたら、チって舌打ちして追ん出されたぜ。ちゃんと毎日欠かさず手入れしてんのに、何が気にいらなかったんだかね」


 見れば話をしている男はどちらも確かに戦士風で、一人はどうやら力自慢らしく、筋肉をわざと見せるように素肌の上に防具というほぼ上半身裸というような恰好をしていた。背にはやはりこれみよがしに大剣を持っていたが、鞘から出ている柄部分を見ただけでその剣の握り部分があまり汚れていない事が分かる。

 その男と話をしているもう一人は中肉中背と言った一般的な体格の男で、ごろつきとしては小奇麗な恰好をしていた。

 彼らの姿を暫く観察すると、セイネリアは露店街の中から、彼らの話していた『ケンナ』という者の店を探す事にした。





「あんたがケンナか」


 店先に並んだ剣を研いでいた男は、セイネリアの声にも、手を止めなければ顔も上げなかった。


「仕事を頼みたいんだ。これから俺用の防具を作ってくれ。……あぁ、鎧まではいらない、多少成長してもどうにかなる程度の代物で、上着の下に着けられるようなヤツがいい。代金は、余った分のパーツをあんたが引き取るって事で差し引きゼロに出来ると思うが」


 だがセイネリアがその言葉と同時に荷物を置けば、男は作業の手を止め、置いた荷物の中身を覗く。それから酷く胡散臭そうに顰めた顔を上げた。


「盗品か? 俺ぁ足が付く仕事はしねぇぞ」

「否定はしないが、正確には拾ったものだ。足はつかないだろうな、何せ持ち主はもう生きてない」


 セイネリアの言い方ですぐに思い当たった男は、大きくため息をついて、袋から荷物を全部出すと今度はじっくりと品定めを始めた。


「死体漁りは感心しねぇが、ま、死んだ方が悪いしな。……うん、少なくともこりゃ魔法鍛冶製じゃねぇし貴族様の紋も入ってねぇ、これなら確かにバラしちまえば問題ねぇだろな。だがなぁ……」


 鎧を持ったままじっと黙った男は、言葉と同時に体の動きも止まる。

 まるで石のように動かなくなった男を見て、セイネリアも座りこんで男の顔を下から覗き込んだ。


「……いい品だ。打ち直すんならまだしも、バラしちまうのは勿体ねぇな」


 顔を上げた男は、セイネリアを睨み付ける。

 だからセイネリアも、男をじっと見つめ返した。


「とはいえ、今の俺に全身鎧プレートアーマーは必要ないし、そもそもこの歳でそんなもの作ったら頻繁に打ち直しが必要になる」

「それなら、こいつを売って新しい出来合いのモンを買った方がいいんじゃねぇか? 差分は金で持っていたほうがいろいろ役に立つだろ」

「それも考えたが……」


 意図を探るように、セイネリアはじっと鍛冶屋の顔を見つめる。


「その鎧の材料はかなりイイモノだ」

「あぁ、そうだ」

「少なくとも、この通りの鍛冶屋程度では見たことがない光り方をしている。作った人間の腕だけじゃなく素材自体がいいんじゃないのか?」

「……そうだな、お前さんの言う通りだ」


 相手もセイネリアの言いたい事を分かった上で、顔を思い切り顰めた。

 セイネリアは笑った。


「それをここで売ったとして、それと同じレベルの素材で出来たモノは俺じゃ手に入らないだろう? だからそれを元にして作って欲しいんだ。幸い今は懐もそこそこ潤ってる、ならこういうものはハンパにケチりたくない、手に入る内で最高のモノが欲しい。折角イイモノを手に入れるチャンスがあるのに、命を預けるモノを勿体ない程度の理由でランクを落としたくはないな」


 それを聞いて男は軽く溜め息をつくものの、今まで顰められていたその口元ににやりと笑みを浮かべる。


「お前さん、何で俺のところへきた?」



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