5・調整2
転送先は東門から半日程歩いたくらいの距離にある森の近くにある荒れ地で、辺りに人の影はまったく見えない。ここにアリエラに結界を作ってもらって、セイネリアは黒の剣から力を放出させるその加減を試していた。
荒れ地側を見れば、セイネリアには魔力の壁として結界が在るのが見える。普通結界といえば目的の箇所を囲むように作るものだが、今回はテストのしやすさと結界の壁の厚さを考えて細長い円形で作って壁のように見せかけている。しかもそれを3つ、ある程度の距離を置いて作ってもらっていた。なにせ剣の威力があり過ぎるから試す度に何かを壊す訳にいかないと、彼女には結界を作ってもらって的代わりにさせてもらっていた。あとは念のため、ここへ他人が近づかないための簡易結界も周囲に設置してもらっている。
セイネリアは黒い剣を抜いて構えた。今回も横に構えてそのまま薙ぎ払う。それは本当に軽く、かなり加減ををしたつもりだった。
けれど剣から溢れて放たれた力は周囲の空気を巻き込んで畝って進む。風が舞う、バリバリと空気が鳴る。純粋な力となった魔力が結界の壁に向かっていけば、魔力は一枚目の壁を飲み込んで消滅させるとそのまま二枚目までを吹き飛ばした。だがその時点で力は霧散し、最後の一枚は無事に残った。
「かなり加減が出来るようにはなったか」
呟けば、アリエラがすぐに言う。
「そうね、でも今のを人に向けたらあの岩までいた人は全滅ね」
「まったく、威力があり過ぎてへたに人に向けられないな」
「あら? さっさとカタがついていいんじゃない?」
戦場を知らない少女は簡単にそう返してくる。
「状況によりけりだな。勝った後まで考えたらそう簡単に使えない。威力があり過ぎるから基本は脅しに使うのが関の山だろ」
つまらなそうに吐き捨てて、セイネリアは黒い剣を鞘にしまう。それから後ろで見ていたクリムゾンに剣を放り投げた。
「少し持っててくれ」
「はい」
赤い髪の男は剣を受け取ると恭しくその剣を持ち上げて礼をした。こうして剣を離しておきたい時、彼に持って貰えるのは便利でいい。
「アリエラ、簡単なのでいいからここに一枚つくれるか?」
セイネリアが通常の剣を抜きながら聞けば、不貞腐れたように座り込んでいた少女は立ち上がった。
「はいはい、いいわよ」
この壁代わりの結界は、すでにアリエラの杖に仕込んであるから労力はあまりかからない筈だった。すぐに彼女は杖を掲げて術を唱え、新しい結界の壁を作る。セイネリアはその場で結界に向けて剣を振ってみた。……勿論、何も起こらない。
「何やってるの?」
「やはり魔力が放出される事はないと思ってな」
「あったりまえじゃない!」
「あぁ、だがな……」
言いながら今度はセイネリアは結界に向かって歩いて行く。メルーが作ったあの馬鹿頑丈な結界程ではないが、この結界も普通の人間なら壁のようにぶつかる筈だった。だがやはり、セイネリアの体はそこにある結界が存在しないかのように通り抜けた。
「貴方に魔法が効かないのなんてわかりきってる事じゃない」
アリエラが腰に手を当てて怒鳴る。
「あぁ、魔法はより強い魔力によって無効化出来る、だろ?」
「そーよ、だから効かないのよ。貴方の体にはあの剣の魔力が流れてるんだもの」
「まぁ待て」
セイネリアは今度は右腰の短剣を投げてみた。最初は、壁に跳ね返された。だが二回目、拾って投げれば短剣は壁をすり抜ける
「何をしたの?」
「二回目はちゃんと投げる短剣を見て、最後まで意識を向けていただけだ」
「触ってなくても意識を向けているなら魔力の影響はあるって事かしら」
「みたいだな」
次いで短剣ではなく長剣の方で壁を触れば剣は壁をすり抜ける。
「持っているもの……俺の体に触れている物の場合は無条件で魔力が通ってるな」
「そうね」
「あの剣を持っているいないは関係ないのも分かった。なら、あと一つ」
言ってセイネリアは長剣を腰に収めるとクリムゾンに向けて手を伸ばした。クリムゾンが黒の剣を差し出してくる。それを受け取って剣を抜けば、アリエラは急いで目を逸らした。
セイネリアは剣を結界に向ける。とはいっても先程のように振るのではない、単にその黒い刀身で結界に触れただけだ。
だがそうすれば結界の魔力が崩れて、剣の刀身の周りにまとわりついてから消えていく。そしてすぐに結界は跡形もなくなくなった。
剣の方をすぐにしまえば、アリエラが結界のあった場所を見て驚く。
「何? また吹き飛ばしたの?」
「いや、例の剣で触れただけだ」
「触っただけで……消せちゃうの?」
アリエラが目を大きく開いて高い声を上げる。それから納得できないという顔でこちらを睨んできたが、セイネリアとしてはこれは予想通りだった。
剣の使い方を調整中。このシーンは次回まで。




