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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十六章:真実の章
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4・調整1

 エルが酒場を出て行くと、その暫く後にそれを追う影が見える。


「誰だ?」

「カシュナです」


 セイネリアが聞けば隣にいたカリンが答える。カシュナは確かリリスの弟子というか子分みたいなモノで、戦闘能力はそこまで高くはないが隠密行動はかなり得意だ。


「悪くない人選だ」

「はい、ありがとうございます」


 エルが手続きのために動き出せば、セイネリアが傭兵団を作る事はすぐ周りに知られる事になるだろう。そうなるとセイネリアと交渉するなり脅すためなり、エルを狙う者が出てくる可能性がある。今までは彼の顔の広さのせいもあってへたに手を出されなかったようだが、セイネリアが傭兵団を作るとなれば他の名のある傭兵団が嫌がらせをしてくる可能性もある。個人ではなく組織ぐるみでこられると厄介だ。

 エルが寝泊まりしているアッテラ神殿内は問題ないと思うが、一応何かあった時に連絡してくる役くらいはつけておくべきだとセイネリアは判断した。とりあえずは彼のプライベートを優先して、遠くから見て彼に問題が起こっていないか、へたな人間につけられてはいないかを確認する程度でいい。


 当然、何か問題がおこればセイネリアが出ていって対処するつもりだ。

 なにせ今は多少なら、魔法ギルド側に無茶を言う事も出来るし、別のアテもある。


「エデンスは何と言っていた?」

「基本的には了承です。ただもう少し遊んでからという事で、本格的に動く事になったらまた連絡をくれ、という事です」


 どうやらあのクーア神官はボーセリング卿に探される事もなくなった今、自由を満喫しているらしい。クーア神官がいるとそれだけで仕事の幅が広がるから彼に声を掛けはしたが無理に縛り付けるつもりもなかった。


「別にこのまま団に入らず仕事ごとに契約してもいいし、団に入った場合も無理強いはしないと言っておけ」

「はい。傭兵団に入っても自分の固定の寝床が出来るくらいで、仕事は気が向いた時だけでいいと言ってあります」


 カリンもこのところ大分セイネリアのやり方が分かってきたらしく、わざわざ指示をしなくてもこちらの意図を予想して動く事が多くなった。やはり自分が部下を従える立場になったのは大きいのか、自信をもって動く事が出来るようになったのだろう。


 そこで遠くから鐘の音が聞こえてきて、セイネリアは立ち上がった。

 それを見て、カリンとクリムゾンも立ち上がる。


「時間だからな、後は頼む」


 言えばカリンは軽く頭を下げてからすぐに去った。彼女が外に出ようとすれば、壁際で待機していた情報屋の方の人間が傍に付く。単独行動をするなといった通り、カリンも外出する時は護衛を連れるようにしていた。

 ちなみにカリンから、セイネリアも外出時にはやはり護衛をつけるべきだと言われていたが……後ろに付く人間が出来た事でそれを言ってはこなくなった。


「なら、こちらもいくか」

「はい」


 クリムゾンが頭を下げて後ろにつく。そうしてセイネリアが歩きだせば、彼は一定の距離を置いてから付いてきた。このところ『くるな』と言わない時はこうして彼は常にセイネリアについてきている。

 彼がいると便利な事も多いから、セイネリアとしてもこのところは彼がいる事が前提で動いていた。とりあえずこれから向かう用件は、彼がいるからやりやすいのは確かだ。


 待ち合わせは街の門を出てすぐ、門の中では人通りが一番少ない東門の外だ。酒場は東の下区にあったからそこまで遠くもない。外から街中へ入るのは冒険者支援石や許可証等の確認をされるが、外へ出るのは素通りでいい。東門の外は一応畑が広がっているが、暫く行けばすぐ荒野になるため、やはり人影は殆ど見えない。

 セイネリアは門から少し出たところにある目立つ木の裏側へ回ると声を上げた。


「おい、アリエラ。来てるんだろ?」


 そうすれば少ししてその木の幹に光の筋が現れ、そこが開いて穴が出来る。その中からまず杖が飛び出してきて地面に突き刺されたかと思うと、それを支えにして少女が出てきた。


「遅いわよっ」


 相変わらず強気な少女は、会うと大抵まず文句を言うのがいつもの事だ。


「悪いな。結界の準備は出来てるのか?」

「……出来てるわよ」


 アリエラは魔法使いになった。それを承知で連絡をとってみたら返事があって、こうしてたまに呼び出しては例の黒い剣を試すのを手伝ってもらっていた。彼女としては毎回気が乗らなそうではあるが、魔法ギルドの方からこちらの頼みは極力受けておけといわれているらしい。『つまり出来るだけあんたに借りをつくっとけってことでしょ』と彼女は言っていたがその通りだろう。あとはこちらの様子を確認する意味もある筈だ。なにせ向うとしてはセイネリアが剣の主になったといっても、唐突に剣に飲まれて暴走する可能性もあると思っているだろうから。


「じゃ、さっさと行くわよ」


 言うと彼女は杖で地面に円を描く。魔法使いになった事でアリエラも魔法使いのポイントを使った転送が使えるようになっていた。ただしまだ慣れないから、複数人の転送は必ず円を描くそうだ。


セイネリアは傭兵団を作るために動きながら、剣を使う時の力加減を調整中、という話。

このシーンは3話使う予定。実際の剣の試し使いの話は次回からですね。

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