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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十五章:運命の章
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80・次の道2

 そこでメルーは今度は明らかにむっとした顔をする。けれどすぐに思いなおしたのか、こちらをじっと見ると探るような目で言ってくる。


「そうね……本を見つけたらさっさと帰ればよかったとか、連れて行く人間は最初から操れるようにしとくべきだったとかとかいろいろあるけど。……あの剣の力を見誤ったのが一番の誤算かしら」


 それはつまり、あの剣の力が想定以上過ぎて結界が効かなかったことを言っているのだろうか。確かにそれは大きな誤算だろうが、そもそも根本的に彼女のミスは彼女自身の性格よるところがある。いつもいつも思っていたが黙っていた事を、今なら言ってもいいかとアリエラは思った。


「いえ師匠様、今回の失敗は全部師匠様の自信過剰の性格のせいです。自分の作った結界も、ご自身の色気にも、自信があり過ぎたのが失敗の原因だったと思います。師匠様は確かに優れた魔法使いでしたが、なんでも自慢して他人を見下すのは悪いクセです。いつもいつも思うだけでしたが、最後なので言っておきますね」


 そこでにこりと笑えばメルーは明らかに目を吊り上げてこちらを睨んできた。顔が赤くなっているあたり相当効いたようだ。なんにしろどうせ最後だから、さんざんこき使われた分のお返しとしてこれくらいの嫌味は言ってもいいだろう。


「恩知らず」


 メルーが怒りをにじませて吐き捨てる。アリエラは笑う。


「あの城で私をあっさり見捨ててくださった貴女に、どんな恩を返せと言うのですか? それに、その前までの恩なら日頃から返していたと思います、私」


 とはいえ、好きに言ってみたはみたが一応師としてまったく感謝していない訳ではないし尊敬していない訳でもない。だからその場で頭を下げて、アリエラは師に最後の別れを告げた。


「それでは師匠様、今までありがとうございました」


 それにメルーは何かを言い返してこようとしたが、そこですぐ、彼女の口はまた封じられて話す事は出来なくなった。メルーの左右についていた監視役が何かの呪文を唱え、彼女から手を離す。どうやらそれは完全に動けなくなるため術だったようで、進行役の魔法使いは固まったようにその場で動けなくなったメルーの額に触れるとアリエラに言った。


「彼女の額に君の額を当てて良いと言うまでそのままで。それで知識と記憶を受け継ぐ事が出来ます」


 動けずずっとこちらを見てる師を見てため息をついてから、アリエラは彼女の額に額を当てた。そこで進行役が何かを呟けば、頭の中に一気に記憶というか膨大な情報が入ってくる。


――なんだ、あの王様もこのオバサンと似たようなものじゃない。


 そうしてアリエラもまた、魔法使いとして『秘密』を知る者となった。







 記憶操作を受ける前、ラスハルカはいくつかの注意事項を聞かされた。

 消す記憶はあの仕事を受けてから今まで。ただ消すだけでは問題があるため、魔法ギルドから別の仕事を受けたとその記憶と差し替えるらしい。

 また記憶操作をした後は、送ってほしい場所に送ってくれるらしい。

 随分至れり尽くせりな事だ、と思ってから、ふとラスハルカは思いついた。どうせ記憶消去を受けるなら、今なら聞けば大抵の事は教えてもらえるのでは、と。


「どうせ忘れるのなら、聞いてもいいですか?」

「何だ?」

「魔剣というのは、普通は魔法使いの魂が入っているものなのですか?」

「そうだ」

「なら、魔剣に主として選ばれるという事は、剣の中の魔法使いに選ばれると言う事なのでしょうか?」

「その通りだ」

「ということは、セイネリアという男は剣の中にいる魔法使いギネルセラに認められたという事なのでしょうか?」

「そうだ」


――いえ、それは違いますよ。


 ラスハルカは思う、何故彼等は分からないのかと。

 狂人が主を選べる筈がない。狂ってる者が大人しく誰かに従うなんて出来る訳がないのだ。

 あの剣を持った者は剣の中にいるギネルセアの怒りと恨みに巻き込まれて暴走する。つまり暴走するくらいギネルセラはもう狂っているのだ、それで主を選べる訳がない。


 だから主を選んだのも、ギネルセアを抑えているのも、剣の中にいるもう一人の仕業だと分かるではないか。あの王の企みは本当は成功していた、騎士の魂はギネルセラを抑えて剣の主を選べるのだ。ただ王の想定外だったのは、自分に忠実だった筈の騎士が裏切った事だった。


 王の魂が入ってきた時、ラスハルカは王が剣を持ったその瞬間の記憶が見えた。

 ギネルセアに精神を支配される前、王は呟いていた、裏切ったな、とその後に騎士の名を。


「あの剣を持っている限り、あの男に貴方がたは逆らえないという訳ですね」


 それには不快げに魔法使いは答える。


「その通りだ、魔法ギルドの魔法使い全ての力を足したとしても、あの剣の魔力には敵わない」


 ならきっとあの男は、今後もそれをうまく利用し魔法ギルドと交渉するのだろう。魔法ギルドさえも手をだせない、常に自分を通せる男。その存在はなんて爽快だろうとラスハルカは思う。

 だからきっと自分もこの記憶は消しておいた方がいい。

 彼が魔法使いギネルセラに選ばれたのではなく、剣の中にいるもう一人――騎士の魂に選ばれただなんて、知っているのは彼自身だけでいい。


ってことでこの章は終わりです。

何故か最後はラスハルカ。

次章はこの剣の中にいる騎士の話が軸になります。

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