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黒の主  作者: 沙々音 凛
第三章:冒険者の章一
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10・提案1

 ナスロウ卿の屋敷よりは幾分か装飾はあるが、それでも割合簡素な部屋の中を見渡してセイネリアは考えた。


――まぁ、貧乏貴族という程ではないがあまり裕福とは言えないだろうな。


 となればあの金額の賞金を出すのはきついだろ、と考えてセイネリアはふん、と鼻で笑った。

 化け物と対峙した途端見捨てられるのも、武器を使用不可能にされるのも、セイネリアの中では想定内の出来事だった。なにせこちらは魔槍を呼ぶという奥の手があるから、武器の細工だけで相手が満足してくれるなら勝手にやれというつもりで剣を出したのだ。ただセイネリアにとって想定外だったのは思ったより魔槍が呼んでから来るまでに時間が掛かったということで、リヴド達が逃げた時点で早めに呼んだ割にはかなり危ない橋を渡る事になってしまった。

 とはいえ、結果的には全てが上手く回っていると言っていい。

 しかもここの領主がちょっとした因縁のある人物だった、というのもなかなか面白い星の巡り合わせという奴だ。さてこの状況をどう利用するのが一番面白いか、というのが今セイネリアが考えている事だった。


 そうして一人、グローディ卿の屋敷の客室で待たされていたセイネリアだったが、そこに騒がしい足音が近づいてくるのが聞こえてにやりと笑う。やっときたかと思いながらも足をテーブルに投げ出していたセイネリアは、そこで一応は礼儀的に足を下して姿勢を軽く正した。

 程なくして扉が開かれ、ここの主であるグローディ卿が二人の部下を引き連れて入ってきた。


「遅くなってすまんな」

「いや、頼んだのはこちらだ、構わんさ」


 そのやりとりには明らかに彼の部下が不快気に顔を顰めたがセイネリアは無視をした。グローディ卿としてはこちらに対して下手に出る理由があるため、部下には予め多少の無礼は構うなとはいってあるのだろうがそれでも気になるのは仕方ないだろう。


「それで、例の連中は見つかったのか?」

「あぁ、お前が言っていた宿に居た。4人で間違いないか? 全員戦士風で確かに一人レイペの信徒がいた。捕まえて、今は面倒だから眠らせてあるが」

「あぁそうだ、間違いない」

「なら早速だが、この件の全貌を聞かせて貰おう」

「あぁ、そうだな……」


 座りながらも身を乗り出して来たグローディ卿に、セイネリアは僅かに笑った。


「まず、俺は今回そいつらとパーティを組んで例の化け物退治に来た訳だが……あんた達も見た通り、戦ってる最中に見捨てられてな。……これを事務局に言えば、奴等の評価は相当落ちるに違いない」

「まぁ、確かにそうだろうな」


 グローディ卿の声には苛立ちがある。それは当然だろうなとセイネリアは思う。なにせ彼がこうしてただの冒険者であるセイネリアに対して下手に出ているのは、彼の現在の悲願ともいうべき望みをこちらがチラつかせた所為なのだから。


 グローディ卿は本来は自分の領地に篭るタイプの貴族ではなく、領地の事は部下と息子達に任せ、首都に屋敷を構えて基本は首都住まいをしていた宮廷貴族だった。その彼が首都を離れてすっかり領地に引き篭る事になったのには理由がある。

 それはつまり、シェリザ卿との勝負に負けて首都の館を手放してしまったからで、当然ながらその時にシェリザ卿の代理として戦闘に出たのはセイネリアだった。


 そういう事情があるから、山で会ってからずっと、未だに未練と恨みたっぷりという顔でこちらを睨んできたこの貴族を見たことでセイネリアはある計画を思いついた。


『グローディ卿、一つ提案がある。実は今回、俺も困った事があってな、出来れば少々協力して欲しいんだ』

『協力、だと……』


 山から帰って来て、一応は”討伐をしてくれた冒険者への労い”として屋敷へ招待されたセイネリアは、客室に通されて苦い顔のグローディ卿と向き合った途端、そう言って話を切り出した。


『協力してくれるなら礼代わりとして賞金は半額でいい。それに……この件が上手くいけばあんたの屋敷を取り戻せるかもしれないんだがな』


 その一言への食いつきぶりと態度の一変した様子は面白い程で、グローディ卿はがぜん乗り気になって、こちらへの惜しみない協力を約束してくれた、という訳だ。


ちょっと長くなったので切りましたがこのおっさんとの会話は次回で終わります。

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