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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十五章:運命の章
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64・その剣を振る

 メルーが作った結界の前に立ち、セイネリアは確認する。

 結界という魔力の塊は見えるから、剣を振りぬく角度を間違えはしない。

 アリエラが作った空間の穴は完全に閉じているから影響は出ない筈だった。


 となれば後は、セイネリアが剣を振るだけだ。


 セイネリアは剣を鞘から抜く。現れた黒い刀身には反射的に嫌悪感が湧くが、クリムゾンが言っていたような吸い込まれるような感覚はない。


「本当に、胸糞の悪い剣だ……」


 ただ思わず、見ればそう呟いてしまう。

 吸い込まれるような感覚はなくても、何かこちらに働きかけているものがあるのは分かる。心の奥がざわつくような不快感、余計なノイズが思考に入り込んでくるような感じだ。

 それでもこちらが意識を集中していけば消える程度のものではある。

 少し困るのは魔力が見えるせいで黒い刀身が纏う力が靄のように見えて、刀身そのものがやけに見え辛い事か。とはいえ大した問題でもない、刀身が見えなくても持てば感覚で振る事は出来る。セイネリアは剣から目を離すと、メルーが作った結界を見て剣を構えた。


 正直まだ剣の力を使いなれていないセイネリアとしては、最初はかなり抑えて失敗も覚悟の上で振ってみるつもりだった。別に一度しか使えない訳ではないし、剣の魔力は腐る程ある。やり過ぎは後戻りが出来ないが、弱すぎて失敗したなら少し調整してまた振ればいいだけである。

 セイネリアは大きく息を吸い、吐き出した。

 剣には意識を向けない。何かをしろと望んでもいけない。ただイメージするのは剣を振ろうとする方向。魔剣としてではなく武器としてどう振るうかという事だけを意識する。それは単に鍛錬として剣を振る時と変わらない。


 セイネリアは大きく剣を横に引くと、結界の範囲全てを薙ぎ払うように振り切った。


 最初は、ドン、とまるで重い塊が落ちたような音がした。

 その次には空気が裂かれて悲鳴を上げる。バリバリと轟音が鳴って風が舞った。破砕音とともに周囲の木が根から浮いて空へと放り投げられる。魔法使いの家は見る間にひしゃげて形を失くし、跡形もなく吹き飛んだ。周囲にあった木も土も空気も、すべてを巻き込んで膨大な魔力の塊がそれらを彼方へと持って行く。

 目に映るのは何もない更地となったかつて魔法使いの家があっただけの場所。そこを包むようにあったメルーの結界は名残として欠片が見える程度で、それも見ている間に消えていく。


「これで、まだ強過ぎるのか……」


 正直剣のバカげた力には呆れるしかない。これでも相当に抑えたつもりが、結果は予想をはるかに超える派手な事態となった。

 とりあえず結界を破壊するという目的は果たした訳だが――セイネリアは顔を顰める。別空間にまで影響は出ない筈だが、想定以上の威力だったせいでアリエラが作った空間が無事かは確認するまで確信出来ない。失敗する気で抑えたつもりがやりすぎになるとなれば、ヘタなところで使えないかとセイネリアは思う。


「まぁ、いざという時、それなりに使えるようには試しておく必要はあるか……」


 剣の力に頼る気はさらさらないが、使う時に毎回やり過ぎるようではいざという時に使えない。道具は自由に使えてこそ意味がある。

 セイネリアはただの更地となった魔法使いの家があったあたりへ歩いていく。正確に前と同じ場所を開ける必要はないが、作った空間のある範囲内でないとうまく繋がらないそうだ。

 そうして例の木の鍵を取り出すと、魔法使い見習いの少女がやっていたように何もない空間に向かって十字を描き、その中心に鍵を挿す。あとはお約束のキーワードを唱えれば空間がめくれて穴が開いた。





 魔法に関する事であるなら、クリムゾンに出来る事は何もない。だから指示通り大人しく魔法で作られた空間で待って、あの男が結界とやらと片づけるのを待つしかなかった。

 アリエラが作った空間の中には光はなく、ただ真暗な何もない穴の中にいる感覚だ。だからアリエラとサーフェスが城の中でのように杖に光を灯していて、皆はその近くに固まって座っていた。


「なぁ、やっぱり時間の流れってのは外とここでは違うのか?」


 ただじっと待っているだけというのが耐えられないのか、アッテラ神官のエルがアリエラにそう尋ねた。


「少しは違うかもだけどそこまで大きな違いはないわ。私の力だとそこまで離れたところに空間を作れないから」

「離れた? って距離の問題なのか?」

「基本空間は重なって存在しているけど、存在する場所が遠い近いっていうのはあるのよ。ほら、紙を重ねた束があったとしてある紙の一つ上にある紙は近いでしょ、でもその紙よりずっと上の方にある紙は遠いじゃない、そんな距離感だと思って。そして近い方が時間や距離の感覚が近くなって、逆に遠いと感覚がかなり変わってきちゃうの」

「ンじゃメルーが作った倉庫は元の空間より結構遠くに作った空間って事なのか?」

「そうよ。だからこそ私たちが普段いる空間のどこからでも距離を無視して開く事が出来たし、時間の流れがかなり違ったの。私はそこまで遠いところに空間を作れないからここはあの倉庫よりはずっと近い場所にあるのよ」


 クリムゾンに魔法の知識はないが、今の話で感覚的には分かった部分もある。魔法を使う事などなくても知識として覚えておいていいだろう。


「でも違う空間を作れるっていうのはかなりの力だよね。その魔法を杖に入れたらすぐ魔法使いになれるんじゃない?」


 それはもう一人の魔法使い見習いの発言だ。


「これがいつでも使える状態ならそうでしょうけど、今回はあの黒い人の力に頼った部分が大きすぎるから私の力とはいえないわ」


ってことで結界は吹き飛びました。次回は中にいた連中が外に出ていくまで。

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