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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十五章:運命の章
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55・剣の誘い

 行きに比べて笑えるくらい順調に元来た道を辿ったセイネリア達一行は、中間地点ともいえる途中で泊まった魔法使いの家にまでたどり着いた。

 それこそメルーが最初に言っていた3日も掛からず着いたからどれだけ彼女が足を引っ張っていたのかが分かるところではあるが、原因はそれだけとも言えない。剣のせいで化け物も獣も近寄ってこない事が分かっていたから、セイネリアは途中から行きのように状況を見て迂回ルートを選択したりはしなかった。最短距離をつっきればそれは早いに決まっている。行きと帰り、どちらの時も先頭はセイネリアが務めていたが、警戒のしかたがまったく違っていたのにはおそらく皆気付いてはいただろう。


 魔法使いの家に着いたのはまだかなり日が高い内ではあったが、さすがにここまでの強行軍で皆の顔には疲れが出ていたためこの日はそのままこの家に泊まる事にした。

 セイネリアはまったく疲れを感じていなかったから、時間的に夕食用の狩りでもしてくるかと思った……のだがそれには少し問題があった。この剣を持ったままでは動物の傍に行けない。かといって剣を置いていく訳にもいかない。

 まだ早い時間というのもあって各自休憩のために部屋へ行った中、一番疲れていないからと火の番を兼ねて暖炉の部屋を使う事にしたセイネリアは剣を置いて考えていた。


――せめて鍵のかかる部屋か箱でもあったならよかったんだが。


 結界代わりに剣を家の前に置いて扉前に荷物でも積んで出られないようにしておくか、と思って考えていれば、そこへ部屋へ行ったはずのクリムゾンがやってきた。


「やはり、ここまで戻ってくる間に動物をまったく見かけなかったのはそれが原因か?」


 彼はかつての自分と同じで根っからの戦士で魔法の気配には疎い。それでも優秀な男だからその事には気付いているのだろうなと思ってはいたが……考えればそれだけではなかったとセイネリアは思い出す。


「そういう事だ、おかげで狩りにも行けない」


 この剣の一番厄介なところは主でなくても抜いて持つだけなら誰でも出来る事だった。そして当然、セイネリア以外の者がこの剣を抜けば――あのクソ王と同じになる。


「なら、俺が見張っていてやろうか?」


 セイネリアはクリムゾンの顔を見た。少なくとも彼はこの剣を抜けばどうなるかが分かっている筈だ。だが彼の表情にも声にも自信があるように思える。


「出来るのか?」


 だから聞いてみれば。


「あぁ」


 彼は剣に手を伸ばしてそれを持ってみせた。鞘に入っているとはいえ、少しだけセイネリアは驚いた。


「大丈夫だ。一度これを持ったからこそ、もう誘いには乗らない」


 彼の様子は無理をしているようには見えなかった。持っていてもそれだけ平然としていられるのなら確かに問題はないように思える。


「誘いというと?」

「お前は分からないのか。この剣は自分を使わせようと人を誘うんだ。鞘に入っている状態でさえ、普通の人間ならじっと見てしまうと意識を持って行かれそうになる」


 確かに自分が感じない分、それは知らなかったなとセイネリアは思う。


「お前は大丈夫なんだな?」

「あぁ、二度同じ誘いに乗りはしない。他の連中が触らないように見張ってるだけなら出来る」


 セイネリアは考える、大丈夫だという彼の言葉は信用しても良さそうだが……。


「あの状況にまたなるなんてごめんだし、他の連中が狂うのも俺にとっては何のメリットもない。信用出来ないか?」


 少し不満そうに言ってくる男にセイネリアは笑った。


「いや、なら少しの間頼む」


 この男が本当に剣を持っている事が出来るのか、それを試してみるのもいいだろう。

 それに最悪、今度はもし誰かが剣を持ってしまっても、恐らくセイネリアが『呼べ』ば剣自体を取り上げる事は可能な筈だ。

 セイネリアは剣を彼に持たせたまま、立ち上がって狩りの準備をした。






 その夜はセイネリアが獲物を多めにしとめてきたためかなり豪華な夕食となった。勿論例の黒い剣はクリムゾンに見て貰って特に問題は起こらなかった。彼はセイネリアが帰ってくるまで大人しく剣の番をしていてくれた。

 エルは一人で狩りに行ったことに文句をいいはしたが、彼自身寝ていた事もあってあまり強くは言ってこなかった、それと。


『樹海ン中で一人で迷子になったらどうする気だったんだよ』

『流石に調子に乗って離れすぎたりはしないさ。それにもし万が一迷っても、お前が引かれ石を持ってるだろ?』


 そう言えば彼は、まぁな、と少し嬉しそうに言ってその話はそこまでになった。彼ならきっと、言わなくても前に渡していた引かれ石を取っておいて今回も持ってきているだろうと思っていた。実際は樹海でどこまであの石が使えるか怪しいところだが、今のセイネリアには迷子にならない自信があったためそう返しておいたというのもある。


 あとは皆、休んでいたのが肉が焼ける匂いで起きてきたという状況だったから、すぐに夕飯となって揉めるような話はどうでもよくなった。久しぶりに食えるだけ肉を食った連中は皆上機嫌で、成果を見せ合ったりして賑やかに夕食を済ませた。その後は明日からの強行軍に備えて早めに就寝となった。


 セイネリアといえば、家の中、暖炉の火の番なら寝ながら出来るからとそのまま中央の部屋で一人で寝る事にした。他の連中がセイネリアだけに負担を掛ける事を申し訳なさそうにしていたが、実際疲れを感じていないからそれは別に構わなかった。

 それよりも、一人になりたい理由がセイネリアはにはあった。


今回はとりあえず中間地点の魔法使いの家まで戻った、というだけのお話でした。

ここでのイベント発生は次回から。

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