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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十五章:運命の章
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47・地下3

 暗闇の中を歩く事は、クリムゾンにとっては別に不安な事ではない。子供の頃に自分を拾った男はまず、自分を暗い洞穴の中に落とした。そこで自力で生き延びられたなら使ってやると、そう言って立ち去った。

 そこはここのような完全な暗闇ではなかったが、光が入るのは落された場所、上に開いた穴の下しかなかった。あとはただの暗闇で、その中で気配を探って動くものを捕まえる事をまず覚えた。幸い水は中に地下水が溜まるところがあったから、そうやって暗闇の中でトカゲや虫のようなものを捕まえて食べ、自分は生き延びた。


 数日後、生きている自分をみた男はこう言った――なら、これからお前を強くしてやる。誰にも屈しなくて済む強さをお前に与えてやる、と。


 クリムゾンというのはその男がつけてくれた名だ。

 その時からクリムゾンにとって、一番価値のあるものは強さとなった。


「お前、もしかして道が分かるのか?」


 暗闇の中、先を歩くセイネリアがあまりにも迷いなく進むものだから、クリムゾンは聞いてみた。


「いや、道は分からないがな……」


 ならなぜその足取りはそこまで自信がありそうなんだ、と思ったところで黒い男は訳の分からない事を言い出した。


「だが、魔法の気配が見えるからな、今はサーフェスのいるところに向かってる筈だ」


 魔法、というのはクリムゾン自身もだが、この男もまったく使えない筈だった。


「魔法が見えるってのはなんだ」

「あぁ、多分さっきの剣と契約したせいだな。あれからいろいろ勝手が変わっててな、正直面倒だ」


 クリムゾンはそこで思い出した、あの剣を持っていた時の感覚を。

 なんと言えばいいのか……自分の感情が膨れ上がるような感じともいうべきか。まず最初に感じたのは怒りで、それから憎しみ、嘆き、妬みと自分の中にあった負の感情が大きくなって、頭が破裂しそうだと思った。そこで何かを考えればそれがまたぶわっと頭の中で膨らんで、それに『力』が沸きあがってくる。膨れ過ぎた感情も『力』も制御など出来る訳はなくただ大きすぎる『力』に流される事しか出来なかった。


 ……そういえば、記憶はあやふやだが、おそらくあの剣を持って最初に思った事は力が欲しいだっただと思う。それで湧いてくる力の感覚に溺れて、自分より強いものが許せなくて、この男に憎しみを抱いたのだ。いや、もしかしたら自分は同時にあの男に助けて求めたのかもしれない。だが助けてくれと伸ばした手は相手をすり潰してやろうとする力となり、あとはただ憎しみに飲まれた。

 自分の意識があったのは最初のうちだけで、途中からは何か大きな感情に流されてよく覚えていない。ただ、自分が自分でなくなる、自分よりもっと大きなものになすすべもなく取り込まれていく感覚を覚えている。

 だから当然、出てくる疑問があった。


「……そうだ、何故、あんたは大丈夫なんだ」


 今思い出してもぞっとする、初めて自分はなんて無力な存在なんだと実感した。自分で、自分を諦めた。


「まぁ、助けがあったしな。それにこいつを使うにはどうやらコツがあるらしい」

「助けとはなんだ」


 セイネリアはただ平然と、軽く笑う気配と共に答える。


「俺にこれを持って欲しいらしい奴の声が聞こえてな。使い方を俺に教えたのさ」


 それでクリムゾンは理解した。つまり、自分は選ばれなかったが、この男は剣に選ばれたという事なのだろうと。

 魔剣――というものについては誰かの実体験として語られた記録がない分、噂でしか分からない。だが語られる噂のどれもにまず、魔剣は魔剣に選ばれないと使う事が出来ないというのがある。

 それが本当であるなら彼と自分の違いは、選ばれた者と選ばれなかった者の差という事になる。


「……その剣は、本当に最強の剣なのか?」


 それはつまり、この男が本当に最強であるから持つにふさわしいと剣が認めたのか。


「あぁ、おそらくな」


 セイネリアの口調は軽くて、冗談じみていた。

 クリムゾンはその時、自分が落胆しているのを自覚した。最強と呼ばれる男が最強の剣を持つ――つまらない、と。


「ふん、最強といってもこんなところじゃ何の役にも立たないな」


 おそらく、そう言ってしまったのは嫉妬だったのだろう。最強と認められなかった自分が惨めで、だから認められたこの男が妬ましかった。

 ただ、言われた方のセイネリアはまったく気にした様子はなく、やはり気楽そうに言ってくる。


「そうでもないぞ、たとえばここから天井を吹き飛ばせば、空まで貫通出来るだろうしな」


 そうすれば少なくとも暗闇問題は解消する、とそれくらいはすぐにクリムゾンも理解する。明るくなるだけでもここから出る手段を探すのはずっと楽になるだろう。


「なら、なぜそうしない?」


 声を荒げて言ってしまえば、男は笑って答える。


「そんな事をしなくても、ここを出るくらいは出来るだろ」

「だが、剣を使えばもっと楽に……」


 出来る事をやらない理由がクリムゾンには理解できなかった。だがそこで、急に男の声が変わる。先ほどまでの軽口と違って、冷淡と感じる程感情の乗っていない声が言ってくる。


「あぁ、理由は簡単だな。俺はこの剣が気に食わない」


 クリムゾンはセイネリアの言っている事が理解出来なかった。


今回はクリムゾンからみた話。もう一話あります。

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