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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十五章:運命の章
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22・見たこともない化け物1

 上を見れば木々の重なりはさらに厚くなっていて地面まで届く光は減っていた。特に今日の空模様はどうやら曇りらしく、落ちてくる光自体も弱弱しい。


――いかにも何か出そうな空気だ。


 クリムゾンとしては願ってもない状況だった。

 ここまでの道中で戦闘がなかった……訳ではないが、危険を感じるようなモノが相手だった事はない。というか殆どが食事用の狩りで、あとは追い払うのが主だ。勿論それは先頭を行くセイネリアが出来るだけ厄介なモノを避けているせいではあるが、それをもって臆病者とはクリムゾンも思ってはいない。

 目的が遺跡探索なのだから、余計な事で時間を潰したくないというのは分かる。

 ただ今回は余程運がよくない限りは1戦あると思っていい筈だった。なにせ前を行く男が戦闘があるものと思っている。


 あの男から怯えている様子は見えない。かといって舐めているようにも見えない。戦闘になるかもしれない事を告げる声も淡々としていて、特に高揚している様子も見えなかった。

 あのラスハルカとかいう男が言う言葉を聞いている時もあくまで冷静に聞いているだけで、割合期待できそうか――というのが現状クリムゾンの思うところだ。


 暫く歩いていれば、また更に周囲は暗くなる。鳥の声も遠い、いかにもな状況だ。静かすぎる森の中で、パーティーメンバー達が草をかき分ける音だけが聞こえる、いや――そこで唐突に前方からザザっと走り出す音が聞こえて、クリムゾンは武器を抜いた。


「出たぞっ、皆、目ぇ瞑れっ」


 それはアッテラ神官の声だ。ならあの男は先に前に出て戦闘に入ろうとしているのだろうか。クリムゾンは腕で顔の前を遮った。すぐ前方に光が広がり、間もなく消える。リパの光石を使ったのだろう、まずは追い払うという方針ならそれは当然の手だ。


「私たちの事は気にしなくていいわよっ」


 声は雇い主の魔法使いで、光が終わってから彼女を見れば、弟子の魔法使いが地面に杖を刺して何か呟いていた。おそらく結界を作って篭る気なのだろうとクリムゾンは理解する。ならばこちらは遠慮なく前に出て構わないだろう。


「おいっ、強化はいるか?」


 前に向かって走っていけば、アッテラ神官がそう声を掛けてくる。彼を追い抜くと同時にいらないと告げ、クリムゾンは更に走った。

 すぐに敵が見える。

 大きさは確かにあのラスハルカという男が示していたくらいのサイズで、高さはこちらの胸くらいか。形としてはイノシシが一番近くはあるが、イノシシより長い毛で全身が覆われていて背中から二本、触手としかいいようのない長細い何かが生えて蠢いていた。勿論、クリムゾンが見た事がない化け物だ。


 ただその化け物は暴れていない、怒っている様子もなかった。光石を使った後であるならそれはおかしいとしか思えない。


「まだ来るなっ」


 言ったのはセイネリアで、クリムゾンは反射的に足を止めた。

 彼は化け物から少し離れた木の影に隠れていて、思わず何をしているのだとクリムゾンは思う。


「少しばかり臭くなる、俺があいつに斬りつけたら来い、取り巻き連中を頼む」


 言うと彼は木から飛び出し、何かを化け物に向かって投げた。

 低い咆哮が響き、毛で目が分からない化け物の顔が縦に伸びたかと思うとその真中に牙に囲まれた口が開く。それから今度は明らかに化け物は暴れ出した。ダン、ダン、とその前足が地面を蹴るように叩けば足裏に振動が響く。だが黒い男はそれを気にする事もなく剣を抜き、飛び出した勢いのまま化け物に向かって行く。そうして暴れる化け物の横へ回り込むとその後ろ足に斬りつけた。

 ドン、と化け物が一際強く前足で地面を叩いて周囲が大きく揺れる。

 クリムゾンは既に走っていた。鼻につんとした臭いを感じる、化け物が暴れているのはこの臭いのせいか。つまり奴は目ではなく嗅覚を頼りに動く化け物という事なのだろう。


――確かに、取り巻きがいるな。


 近づけば化け物の足元には毛玉のような連中がうろついていた。そのうちの一匹がセイネリアに体当たりを仕掛けようとしているのを見て、クリムゾンは腰から抜いた湾曲ナイフを投げつけた。

 その時には当の男はもう一度化け物の同じ足に今度は剣を突き刺していて、そこで化け物は体重を支えられなくなったのか足を折って尻を地面に付いた。ただ化け物の背から生えていた触手がその場でめちゃくちゃに暴れ出し、黒い男は一度離れる。

 化け物の周囲を見れば小さい毛玉どもは勝手にあちこちの方向へと向かっては木にぶつかったりしていてどうにも様子がおかしい。だがその一つへと近づいていけば急にこちらに向かってきて、クリムゾンは急いで持っていた剣でそれを斬り殺した。


「小さいのは全部殺さないでくださいっ」


 声に目を向ければこの化け物を当てたあの優男で、ならばそれには従った方がいいのだろうとクリムゾンは判断する。だからあえて自分から毛玉には向かっていかず、セイネリアを見て彼の邪魔をしそうな奴だけを狙う事にした。

 ただ戦闘はもう終わりそうではあった。

 目を離した隙にあの男の剣は今度は化け物の横腹を刺していて、大量の体液が地面へ溢れ出していた。化け物はもう立ち上がる事も出来ないようで前足だけをばたつかせていた。背中の触手はあの男がどうやら斬り落としたようだ。


ちょっと化け物にエンカウントしたというお話。

このシーンは次回で終わりです。


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