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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十五章:運命の章
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5・道2

 つまり元からいたメンバーなら戦力枠はエルとウラハッドとラスハルカとなる。それは依頼主が誰でももっと戦力が欲しいと言って当然だろうとセイネリアは思う。だからエルも『戦力』となる人間メインで声を掛けたのだろう。

 ただそうなるともう一人の魔法使い見習い――サーフェスには疑問が湧くところではあった。


「サーフェスに声を掛けたのは何故だ?」

「まぁ……別で組んだ時に金が欲しいって言ってたから声かけたんだよ。物知りで機転が利くし、魔法使いでもちゃんとついてこれっだけの体力はあるし足手まといにはなんねぇからいいだろ」

「確かにな」


 森の歩き難さにメルーは一々文句を言っているがサーフェスは今のところその手の文句は言っていない。あの女魔法使いにちくりと嫌味を言う以外は黙々とついてきているところからして確かに体力はありそうだった。

 それに――エルは口に出さなかったが、おそらく彼に声を掛けたのには依頼主が信用出来なかったからというのもあるのだろう。魔法関連でおかしい行動がないか見て貰うために彼を入れたと考えれば納得出来る。……エルにしては随分考えたとは思うが。


 奥へと進んで行けば森は深さを増して暗くなっていき、足元は更に歩き難くなっていく。途中2回、また石を投げて行く方向を確認したが、3回目でメルーが差した方向には人が入った跡は見つけられなかった。

 つまり、ここからは本気で何が起こるか分からない未知の領域に入るという事だ。


「さて、ここからはもう道はないわ。皆、覚悟はいいかしら?」


 ここまで来て躊躇するような人間はいないから誰も不安な言葉一つ吐かなかったが、セイネリアとしてはやけに楽しそうな女魔法使いの様子には少しだけひっかかかるものがあった。

 とはいえこの女魔法使いが何かしら企んでいるのは最初から分かっている。だが今はまだこちらの人数を減らすような企みはしないだろう。何かあるなら帰り路、つまり何かしらの成果を上げて引き上げる時だ。


 完全に道のない場所を通る事になれば2列は無理で自然1列となる。

 森歩きに慣れているという事もあって、人の入らない領域に入ってからはセイネリアが先頭を歩いてまず前方と足元を確認していた。エルは後ろの連中を確認しつつついてくる訳だが、幸い戦闘が必要な大型の動物や化け物が出てくることは今のところはなく、地面の歩き難さ以外は順調だといえた。


「この辺りにはまだ、バケモンとかは出てこねぇみたいだな」


 エルが確認するように声を掛けてきたから、セイネリアは振り向かずに返す。


「今のところいかにもヤバそうな大型獣がうろついてる形跡はないな。尤も、魔法的な化け物は分からないが」

「あぁ、確かにそういうのもいるっけな……」


 それでエルも樹海の火事の後始末の化け物退治を思い出したのだろう。火から逃げ出した連中は殆ど動物型の化け物だったが、実体のないタイプも確かにいた。


「そういえばあの火事では森の外周に住んでた連中がかなり外に出ていったからな、そのせいでこの辺も意外に平和なのかもしれないぞ」


 この辺りは火事で焼けた場所ではないだろうが、火事のせいで割合外周近くに住んでいたもの達は外へ逃げて行ったか、逆に更に樹海の奥へ移動した可能性がある。

 だがそこでエルより少し後ろから声が上がった。


「それって数年前にあった樹海の大火事の話かな?」

「あぁ、その火事だ」


 サーフェスの声にエルが答える。植物系魔法使いの青年は直後に『あー……』と声を上げた。


「その時は大変だったみたいだよ、植物系の魔法使いが大量に呼ばれて森の再生作業やったみたいだから」

「お前は行かなかったのか?」

「僕はちょっと忙しかったからね。でも相当大変だったのは聞いてるよ」


――成程、そのせいか。


 セイネリアが樹海に来てまず思った事……年単位前の事とはいえ、相当大規模な火事だったのに樹海の外周が若い木ばかりでなかったのは、植物系の魔法使いが火事から再生した木達の成長を操作したと考えれば納得できる。


「ま、森は復活したといっても、あの火事のせいで森に住んでた連中は相当減ったし逃げて移動した連中も多かったんだろうよ」


 エルの投げやりな言い方に笑いながらも、セイネリアの中にはある疑問が湧く。つまり……そもそもなぜ、火事で焼けた箇所をわざわざ再生させたのか。大火事とはいっても樹海の殆どは無事だったのだ、それなら焼けた箇所はそのまま木を排除して国の土地として使えばよかったのではないか?

 ……ただこれは、ヘタに口に出すべきではないとセイネリアは判断する。


「あの時の化け物レベルなら大量にこなければ大丈夫だろ」


 だから単にエルの話に合わせて返した。見たところエルがこちらと同じ疑問を感じた様子はない、彼は相変わらずの口調で返してくる。


「そりゃな、まぁそれで済めばいいんだけどよ」

「……あぁだが、大物や硬い化け物が出ても困るな。なにせここだと周りが木だらけで槍は使ってられない」

「あー……そりゃ確かにそうだ。ってかそれ言ったら俺も結構きっついんだがよ」

「分かってるさ、一応、お前が戦わなくて済むようにはするつもりだ」

「頼むわ」


 他愛ない雑談をしながらもセイネリアは考えていた。

 樹海の外周を再生したのは国の意思なのか、魔法ギルドの意思なのか。


――いや、国がやらせる筈はないな。魔法ギルド側の意思だろう。


 となれば魔法ギルドには樹海が樹海のままであって欲しい理由があるのではないか……それはまだ仮説だが、セイネリアの直感はそれを当たっていると告げていた。


次回は一日終わって野宿の話……かな。

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