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黒の主  作者: 沙々音 凛
第三章:冒険者の章一
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4・僕3

「旦那はきっと凄いお方になるでしょう。それから私が部下なると言ったとして、きっと旦那は歯牙にもかけないことでございましょう。ですが今の貴方へならば、私は私にしか出来ない事でお役に立てます。それに当分は旦那に居場所を作って頂く必要もございません」

「……つまり、このままシェリザ卿のもとにいて、俺にあのクソジジィの情報を流してくれるという事か?」

「左様です、やはり貴方は頭がいい」


 主としての将来性を買っている……とも取れるがそれとは違う。ボーセリング卿のような駆け引きを考える程の頭もないだろうこの男の顔を見れば、どうみてももっと感情的な理由が大元にあると思われた。


「……分らんな、それは相当に危険だろ、何故そこまでして俺につきたい?」


 細めていた男の瞳がそこで大きく見開かれる。喜びを顔全体に浮かべた男はうっとりと酔うような声で言った。


「それは貴方が、あの男に蔑みの目を向けるからです」


 あの男とは当然シェリザ卿の事だとして、そこでやっとセイネリアも男の意図が見えてきた。


「私はずっと蔑みの目を向けられてきました。あの男は私を拾って部下としながら、やはり蔑みと嘲笑の目を向けてくるだけでした。ですが旦那は私に対してそんな目は向けない、ただの連絡役としか見ていない。旦那が私に興味がないことなど分かっております、ですが貴方は一度も私を蔑みの目を向けた事はない。この姿を嘲笑った事などない……だがそんな貴方は、私を蔑むあの男を蔑みの目で見るのです、これほど痛快な事がありますでしょうか」


 爛々と喜びに輝く男の顔を見て、セイネリアは苦笑する。


「それはお前の言った通り、お前に興味がなかっただけだ。お前を嘲笑する程お前に興味もなかった、連絡役としてのお前には別に不満もなかったし、わざわざどうこう思いもしない」

「なら、あの男を貴方が嘲笑する理由は何でしょう?」

「それはあのクソジジイが滑稽だからだ。自分が有能で偉いと思い込んでいる、自己顕示欲だけが肥大化した能無し。中身が空っぽのくせに尊大に振舞い、気づいたら自分でどうにも出来ない敵を作って人に頼らなくては怖くて生きていけないなど、最高に滑稽な道化だろ」


 それを聞くと男は楽しそうに笑う。腹を抱えて、涙を流して、頭のイカレた者のように狂気さえ含ませて笑う。暫くそうして笑った男は、やがて笑いが収まるとやけに清々しい笑みを顔に張り付かせ、改めてセイネリアの前に跪くとこちらを見あげた。


「あぁやはり貴方は最高です。どうぞあの男に自分が道化であるということを思い知らせてやって下さいませ」


 そうして自分を見あげる男の目を見て、セイネリアはやっとこの男がどうしてここまで自分の部下になりたがるのか全てを理解出来た。


「お前の本当の望みは、あの男が惨めな姿を晒すことか?」

「さぁ、どうでしょう。確かにそれが叶えばさぞ楽しい事でしょうが、それが目的ではございません。少なくとも一番の望みは、貴方様のお役に立ちたいというその思いでございます」


 男がセイネリアを見つめる瞳は簡単に言えば、憧れ、崇拝……まるで自分の神を見るかのようなその表情にセイネリアは内心呆れる。

 人から馬鹿にされ、蔑まれて生きてきたこの男にとって、逆に貴族にさえ見下した態度を取る自分の姿は崇拝の対象たりえたのだろう。もしくはそんなセイネリアの下につくことで自分もその相手を蔑む側になりたいというのもあるのかもしれない。どちらにしろ、今のこの男はセイネリアの為なら恐らく命がけで役に立とうとするだろう。実際自分の体の利点を分って利用するこの男の仕事ぶりは悪くない、セイネリアにとって『役に立つ』事は確かではある。


「まぁいい、確かにお前は役立つだろう、今の俺に断る理由はない。俺はお前の仕事に見合う程度にはお前に報いてやれるようにはするさ……まだ今の俺では確約までは出来ないがな」

「そのお言葉だけで十分でございます」


 満面の笑みのままそう答えると、男は頭を地面に擦り付けた。


思いの他長くなった面倒臭い男との会話はここで終わりです。一応部下2号ですかね。次回からお仕事に入ります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 連絡役と主人公が、豊臣秀吉と織田信長みたい
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