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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十五章:運命の章
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4・道1

 樹海に入って暫くは、石畳はないもののきちんと道となっているところを歩く事になる。当然これは奥までなんて続いていないが、暫くは樹海といっても楽な道が続く。


 樹海は未だに謎が多く得体の知れないところではあるが、周辺にはいくつもの村が点在していた。

 昔からある村も勿論あるが、大抵はクリュースに併合された後、樹海でしか採取出来ない植物や鉱物目的で集まった連中が集落となったものだ。彼等は当然日々樹海へ入っているだけあって樹海に詳しく、余程樹海慣れしたパーティでなければまずガイドとして彼等を雇う。

 ただし、樹海と共に暮らしている彼等であっても樹海を知り尽くしているなんてのはあり得ない事で、比較的浅い周辺くらいしか行った事が無い者が殆どである。それでも樹海でのお約束やら生息する動植物には詳しいため、樹海の内部に入るならまず周辺の村で一泊してガイド交渉をするものだ。


 ただ今回はそのガイドは雇っていない。当然、村で一泊もしてきていない。雇い主がその必要がないと言ったからだ。

 とはいえ、ガイドはともかく森の中をずっと進むのに狩人なしはおかしいだろう――とそう思っていたセイネリアの疑問は、歩いている間にエルから聞く事が出来た。


「俺も最初は入れるべきだっていったんだがよ、お前がガキん時は森で生活をしてて森慣れはしてるって言ったらならいらないと言われたんだよ」

「だが俺はロックラン信徒じゃない、動物避けの結界は張れないぞ」

「それは必要ないんだとさ」


 ちなみに雇い主の魔法使いに聞かれると面倒なため、この会話は小声でのやりとりだった。……まぁ、魔法使いだから聞こえている可能性もなくはないが、聞かれても致命的という程の話ではないだろう。


「どういうことだ」

「さぁ? まぁ魔法使いさんが問題ないっていうなら何か手があんだろーよ」


 この辺りはまだ樹海でも人の出入りがある調査済みの場所であるから、道に迷う心配もなければ危険な動物が出てくる心配も殆どない。最初のメルーの説明でもあった通り両側に一定間隔で杭の打たれた道は、動物が入ってくる事もまずないしここにいるなら魔法も使える。

 冒険者達が樹海を調査し、そこから魔法ギルドがこの手の道を設置していったのだが、未だに奥地にはまったく踏み込めてはおらずこの道も外周周辺止まりだ。冒険者制度がもともとこの樹海調査のために出来た制度だと考えればその思惑は失敗したと言ってもいいだろう。ただし、冒険者制度自体は成功しているから、それにわざわざわケチをつける人間もまずいないだろうが。


「はい、ちょっと止まって頂戴」


 背後からその声が聞こえて、セイネリアとエルはほぼ同時に足を止めて後ろを見た。


「さっき言った通り位置確認をするわ、これを投げて」


 エルが肩を竦めてからこちらを見て、それからメルーの方へ向かう。彼は女魔法使いからから何かを受け取るとこちらにまた戻ってきて、セイネリアにそれを渡してきた。


「……頼むわ」

「あぁ、分かってる」


 受け取ってから彼に苦笑を返せば、エルはまた肩を竦めてわざと呆れたような顔をする。まったく、ご苦労なことだとセイネリアは思わずにいられない

 渡されたのは確かに魔法の気配がする石で、リパの光石より僅かに重い。空へ向かって出来るだけ高くというなら真上に向かって投げればいいという事だろうと、セイネリアは上を見上げ、腰を少し落としてそれを思いきり投げた。途端、おぉっと他の連中の声が上がる。

 空高く上がった石は空中で弾け、一筋の光の線を描いて消えていく。

 そこでメルーが声を上げた。


「向うね、さすがにこれ以上『道』を行くのは無理かしら。でもまだ問題ないでしょ」


 彼女の差した方向は確かに杭が打たれた『道』からは外れる森の中だが、人が入っていった跡はあるから地元の者達が行っている範囲ではあるのだろう。足手まといもいる状態で無駄な危険を冒そうとは思わないから、セイネリアは踏みしめて道になっていそうな場所から彼女の言った方向に向けて入っていった。


「樹海は危険だと言われている割りに、結構人が入ってるものなんですね」


 森の中に入るなりラスハルカがそう言い出せば、おしゃべりな雇い主が得意気に説明を始める。


「ここらに住んでる連中が毎日入って狩りなり植物採集なりしてるのよ」

「危険はないんですか?」

「よく人が立ち入るようなところまでならさほど問題はないわよ。もし奥からヤバそうなのが出てきちゃった場合でも『道』に逃げ込めればどうにかなるから『道』から離れすぎなければ大丈夫ね」

「なぁるほど」

「ただ今回はもっと奥に行くから当然『道』には逃げ込めないし、すごい化け物も出てくるかもしれないわよ」

「はは、私はそこまで強くないので大物は強い人達に任せます」

「私たちの護衛くらいはしてもらうけど」

「それは勿論」


 この会話だけだとラスハルカという男は何の為にこんな危険な仕事を受けたのだと思うところだが、上級冒険者であるなら何か特殊な能力がある可能性はある。そういえば目に見えるところに自分の神の印をつけていないからどの神の信徒であるか分からない――セイネリアはそこが気になった。自分のような無神論者にも見えないのだが。


「エル、あのラスハルカというのはお前の知り合いか?」


 だから隣を歩くエルに聞いてみれば、彼は長棒を杖のようにして道を歩きながらあっさりと答えた。


「いや、知らねぇ。俺が声掛けた人間じゃねぇよ、あの女の募集に直接申し込んできたんだ」


 それはますます怪しいか、とセイネリアは思う。

 そもそもエルが人集めをするハメになったのは、仕事の危険度から考えてもっと戦力が欲しいと女魔法使いが言い出したかららしい。となれば。


「ちなみにお前が連れてきた人間は誰だ?」

「お前とクリムゾンとサーフェスだよ」

「……成程」


森の中を歩きつつのエルとの会話なシーンですね。ここは詰め込んで2話、次回で終わらせます。

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