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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十五章:運命の章
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2・樹海へ入る前に1

 例によって正式に冒険者事務局を通した樹海調査の仕事は、行きは転送代を出して貰えるから現地には一日の内に着いた。依頼主なら魔法ギルドの転送ポイントが使える筈だが、それは一般人には秘密だからか彼女は何も言わなかった。他の人間がいるせいなのかもしれないが、セイネリアに何も言ってこなかったところからして少なくとも彼女はケサラン経由でセイネリアを知っている訳ではないと思えた。もしかしたらセイネリアと魔法ギルドの関係についても殆ど知らない可能性もある。

 魔法使いであるならどちらにしろ胡散臭い事に間違いないが――魔法ギルドとは出来れば関わりたくないセイネリアとしてはまだ魔法使い個人の思惑の方がマシだと思えた。


 今回の仕事におけるパーティメンバーは全部で8人。冒険者としての参加者は全員が上級冒険者という相当豪華な顔ぶれだった。エルもセイネリアが騎士団にいる間にあちこちに呼ばれて上級冒険者となっていたらしい。


 そのエルが声を掛けて集めた者が多いというのもあって、名目上のパーティーリーダーは雇い主の魔法使いだが実質のリーダーはエルという事で皆同意していた。彼との固定パーティを解消している時点でセイネリアも自分がリーダーだという気などない。能力的にもエルなら信用出来るし、この手の寄せ集め的な面子の纏め役は彼が適任だろう。


「じゃぁこれから樹海に入る訳だけど、まず絶対に皆と別れて行動しない事。はぐれて迷子になったら探さないで見捨てるから」


 依頼主の女魔法使い、メルーは樹海の入口までくると偉そうにそう言って説明を始めた。実を言えばクーア神殿の転送待ちの時にも言っていた事であるから皆は辟易した顔をしていたが、彼女が依頼主であるのもあって文句を言う者はいなかった。


「師匠様、入る前に『道』を辿る手順を説明するのではなかったのですか?」

「あぁ、そうだったわね」


 余計な事をベラベラ喋っていた女魔法使いは、傍に控えるように立っていた少女に言われて腰にある革袋から石を取り出した。少女はメルーの弟子でアリエラという、魔法使い見習いだ。セイネリアとしては危険と分かっている樹海探索に何故また見習いなど連れてきているのかと思ったが、ここまでの様子を見たところメルーの雑用係のようなものらしい。使用人を連れて冒険にくる貴族女かと言いたくはなるが、魔法使いというのなら役に立つ能力がある可能性もあるだろう。

 とりあえず、メルーとこの弟子の2人だけは依頼主枠だから上級冒険者ではない。


「まず言った通り今回はアテもなく探し回る必要はないの、行先の場所はもう割りだしてあるわ。ただ樹海の中はいろいろ厄介で地図を見て進めばいいって訳じゃないのよ」

「なら、どうする?」


 明らかに苛立った口調でそう聞いたのは赤い髪に赤い瞳の剣士……名はクリムゾン。冒険者間の噂話では割合物騒な話を聞く人物だが腕は間違いないだろう。細身であるから一見弱そうにも見えるが、歩き方から完全に気配を消して動けるタイプの人間だと分かる。目つきや持つ空気がボーセリングの犬どもとよく似ていた。いや、向うは飼い犬の分抑えが利くが、この男は野犬か狂犬と言ったほうがいいかもしれない。この手の人間は不利な状況になれば裏切る可能性はあるが、逆にこちらについた方が得だと思わせられれば裏切らない。セイネリアとしては扱いにくいタイプではなかった。


「黙って聞いていなさい、これから説明するわよ。いい、手順としては簡単、ある程度進んだらこの石を空に向かって投げるだけ。それで進むべき方向が分かるわ」

「それはあんたが投げるのか?」


 そこで聞き返したのはエル。流石に今回は自分がまとめ役だと分かっているからか、話し合いでも彼らしい軽口は殆どなかった。それに多少違和感を覚えるが、彼も彼で自分がいない間にいろいろあったのだろうと、セイネリアとしては現時点では深く詮索する気はなかった。


「投げるの自体は術じゃないから誰でもいいわよ。ただ出来れば高く上がるほうがいいからこの中で力がある人に投げて貰おうかしら」

「ならセイネリアだな」


 当然のようにそう言って、エルはこちらを見てくる。


「了解した」


 そう返せば、少し離れたところにいたひょろっとした男がこちら見て、媚びるようににこにこと笑って言ってきた。


「確かに、貴方は相当力がありそうですね」


 ぱっと見ではやさ男としか形容出来ないこの男はラスハルカ。これでも一応戦力枠で剣士だという。装備的にはかなり軽装で、武器は短剣だから身軽さで戦うタイプなのだろう。ひょろっとしたどう見ても強そうには見えない体つきに年齢もこちらより少し上程度だが彼も上級冒険者ではある。足手まといかどうかはまだ分からないが、戦力枠なのだから自分の身は自分で守って貰えばいい。


「うん、任すよ」


 ただラスハルカ以上に役に立たなそうな戦力枠がもう一人いた。それがこのウラハッドという男で、体つきはそこまで弱そうではないがなにしろやたらと無気力そうに見える。何か思いつめたような空気もあってまるで死に場所を探しているようだが……もしそうなら迷惑極まりない話だ。ただそれはそれでなにかあったら真っ先に見捨てればいいだけではある。


登場人物紹介?なこの場面はあと1話あります。というか紹介人物もあと一人だけなんですけどね。


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