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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十四章:予感の章
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27・情2

この話でこの章は終わりです。

 あの男は今のところ、自分には情がなく、どんな時でも冷静に判断できると思っているだろう。


 けれどケサランには分かる、人の思考自体を読めなくても感情を感じ取れるからこそあの男が分かるのだ。

 確かに彼は、自分の力が及ばない、もしくは失うモノに見合わないと判断すればあっさり他人を切り捨てられる人間だ。だが力が及ぶ範囲だったならば――あの男は自分が認めた者を見捨てられはしない。もとから欲のない男だからこそ、自分の命でもない限りは認めた人間のため、何かを失う事も厭わないだろう。

 他人はどうでもいいと言っているくせに、自分が気に入った人間には手助してやる。あの男自身の能力が高いからこそ彼にとっては大した事をしていなくても、相手にとっては相当大きな力となる。どう考えてもそれらは利益計算だけの行動ではない。


――他人を排除して考える者ほど、他人に対して何か求めているものがあるんだぞ。


 多分、言っても聞かないだろうから言わないが、それがあの男に枷を嵌める事になるかもしれないとケサランは危惧していた。

 ただ逆に、それが良い面もある。本当にあの男が他人をどうでもいいと思うような人間なら誰もついてこない。あの男が認めた者達があの男について行くのは、彼のそんな部分を感じ取っているからもある。


――それが良い方へいくか、悪い方へいくか。それだけの話なんだが、それに嫌な予感しかしないのは何故なんだか。


 考えても分からない。この予感が外れる事を願う事しか出来ない。とはいえ本来そんな事を心配する方がおかしいだろうとケサランは思わず自分に言いたくなる。

 ただ、その理由はわかっていた。

 人の感情を感じ取れるケサランには、あの男が本心から言ってくる言葉のどれもこれもが気持ちいいのだ。自分の信念のまま、他人に流されることなく堂々と伝えてくるあの男の感覚がとても爽快で楽しいのだ。

 だからこそ、あの男の信念が捻じ曲げられ、後悔で燻る姿を見たくないと思う。

 魔法ギルドよりあの男の方に肩入れしたくなる自分に呆れながらも、あの男があのままでいられる事を願ってしまう。






 北にある国々の秋は短い。

 セイネリアがラドラグスから帰ってきた後、季節はすぐに秋になり、それを実感する間もなく冬はすぐにやって来た。冬の間はやはり組織関連の仕事をするのがメインとなったが、頻繁に伝言でケンナとやりとりをしていたため事務局には毎日行かなくてはならず、思ったよりもそれに時間を取られた。

 ただそのせいで、来た伝言にすぐ気付けたという利点もあった。


 雪解けが始まってそろそろ春の気配が感じられる時期、セイネリアはエルから伝言を受け取った。

 内容は仕事の誘いで、まだ少し時期が早いとは思ったが続く説明を見れば問題ないかと納得する。なにせ行き先は樹海で、仕事内容は遺跡探索らしい。クリュースでも南端に当たるあの辺りは雪は滅多に降る事はなく冬でも温暖な場所で、この時期ならあの辺りはこちらの春以上の気温であることは確実だった。


 ちなみに、そういう事情であるから一年中仕事がしたいような連中は冬になると元ファサン領だった南方面へと移動する。現地なら樹海関係の軽い仕事は割合よくあるからまず仕事にあぶれる事はない。ただし移動距離的に簡単に行き来できるものではないから首都周辺の大半の冒険者は冬までに稼いで冬は遊ぶ方を選ぶのだが。


 樹海の仕事は行きだけは国の金で転送して貰える……というの利用して秋から冬にかけて樹海調査の仕事を入れる者もいるが、帰りはどうしても春以降になるというのもあって募集してくれる依頼主がまず滅多にいないというのが実情だ。


 結果、首都からの仕事は帰りを考えて冬場はあまりないのだが、船便が増えて帰り路が確保出来る春少し前くらいのこの時期になれば樹海調査の仕事が出てくる。だから樹海の仕事、というだけなら別にひっかかるものはない。

 危険な仕事というのも樹海行きでわざわざこちらに声を掛けてくるなら当然そうだろうと思うところであるし、エルがメンバーを集めているならちゃんと使える人間を揃えているだろうと予想出来る。


 ただ依頼人が女魔法使いという事で――セイネリアとしてはそれに何か嫌な予感がするのは仕方なかった。


ってことで次章はエルが持ってきた仕事の話になります。

樹海探索なんで基本的にはいかにも冒険譚っぽい展開にはなると思いますが……。


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