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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十四章:予感の章
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24・交渉と条件2

「それで魔法使い、一つ交渉したい事があるんだが」

「なんだ、貴様がそんな改まって聞いてくるあたり嫌な予感しかしないが」


 それは当たりだな、と思えばセイネリアとしては苦笑しか出ない。

 これを聞けば彼が困るのは分かっていた。


「俺があんたから聞いてる魔法使いに関する話、勿論約束通り他言する気はないがカリンにだけは例外に出来ないか?」

「例外というと……彼女には伝えたいという事か」

「そうだ、あいつは俺の一部のようなものだ、たとえ何を知っても俺が言うなといえば絶対に言わない」


 ケサランは盛大に溜息をついた。


「あのな、現状でもかなりお前の扱いはギリギリなんだぞ、そんな事出来る訳ないだろーが!」


 そう言われるのは分かっていた。ただ交渉材料はある。


「勿論、ただでこちらの希望が通るとは思ってないさ。だからもしあいつから情報が漏れた場合、俺はあんた達魔法ギルド側からの指示を何か一つ無条件できく、というのはどうだ?」


 それにはケサランの顔色が変わる、彼は怒鳴る勢いでこちらに詰め寄ってきた。


「馬鹿か、お前はその意味を分かってるのか?!」

「分かってるさ、それに魔法ギルド側が俺に何かさせたい事がありそうなのも分かってる」


 ケサランは頭を押さえて考え込む。それから大きくため息を吐いて、嫌そうにこちらの顔を見てきた。


「部下のために、お前の信念を捨てる事になるかもしれないんだぞ」

「その心配はない、カリンが秘密を漏らす事はないからな」


 ケサランはそこでまた、もう何度目か分からない大きな溜息をついた。


「一つ教えておいてやる。お前はお前が思っている以上に魔法ギルドからは注目されている。ギルドの上の連中が何人も、お前を手駒に出来ないかと狙ってる」

「……みたいだな」

「分かってるならもう少しよく考えろっ、軽々しくそんな条件を出すなっ」


――まったく本当に魔法使いらしくない。


 文字通り血相を変えてこちらを聡そうとする彼の言葉は、あまりにも人が良すぎてセイネリアとしては困るくらいだ。


「分かっているからこその条件だ。カリンの事は相当のイレギュラーだろ、普通なら通る訳がない。だがその条件なら魔法ギルドは即却下とはしないだろ」


 ケサランはこちらの顔をじっと見て、それからやはり大きく息を吐き出した。今度は頭を押さえたまま、疲れたように傍の荷物の上に座った。


「確かにな。だがそこまでして部下にお前が知る事を伝えたいものか?」

「言ったろ、あいつは俺の一部みたいなものだ。あいつの判断が俺の判断となれるように、判断材料となる情報は共有しておきたい」

「なるほど」


 そこで魔法使いはまた暫く考えこんだから、セイネリアは言葉を付け足す。


「ただし、それにも条件をつけさせて貰う。もし魔法ギルド側が俺に言う事を聞かせるため、カリンに何かして無理矢理情報を漏らさせるなんて事があれば無効だと」


 ケサランはそれに顔を上げた。


「確かに……それは最初から言っておいた方がいいな。だがこちらも一つ、付け足さないとそもそもギルド側に話を聞いて貰えない条件がある」

「それは何だ?」

「お前に何かやらせるのとは別に、お前の部下から情報が漏れたらその部下と漏れた連中の記憶を消す事になる」


 確かに秘密が漏れた場合、その後始末をするのは彼等としては当然の事だろう。本来ならわざわざ事前に言っておく事もなく当たり前に行うだろうその処置を、こうして言ってくるというところもこの魔法使いだからこそだ。事前の許可なくカリンの記憶操作などしたら自分が反発すると彼は分かっている。


「……あんた達としては仕方ないのだろうな。分かった、それは承知した」


 彼はそこからまた考えて、それから思い切ったように立ち上がった。


「ならその内容でギルドと交渉しておく。……それとお前の後付けの条件、ギルド側が手を回したかどうかを確認出来るような人間が必要だろ、それは俺の方で決めておいていいな?」

「あんたじゃないのか?」

「俺だと能力的にも立場的にも無理だ」

「そうか、ならあんたに任す」


 ケサランはそこで顔を顰めてこちらを見た。


「……随分簡単に任せるんだな」

「あんたの事は信用してる」


 言えば魔法使いは苦笑してから肩を竦めた。


「ならもっとこっちの言う事を聞け」

「信用はしてるが従うとは言ってない」

「まったく」


 ケサランは嫌味そうに笑ってから背伸びをすると、ぶつぶつと小声で文句をいいながら背を向けた。


「とりあえずギルドの方と交渉はしておく。連絡は後でする」

「頼む」


 それには返事も憎まれ口も返さずに、彼は背を向けたまままた背伸びをした。それで話は終わりかと思ったセイネリアだったが、彼はそこから転送のための術を唱えようとせずに黙って立っているだけだった。

 不審に思いつつもまだ何かあるのかと待っていれば、背を向けたまま彼が言ってくる。


「いいか、さっきの事をよく覚えておけよ。魔法ギルドはお前をこちら側の人間にしたがってる。……そして、お前は魔法ギルドと関わらずにはいられない、一度関わったら戻れないんだ、絶対後悔するぞ」


交渉と条件は次回で終わり。

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