22・迎え3
「茶番……ですか?」
カリンは首を傾げる。そうすれば今度は藪の向うから小柄な人影が歩いてきた。それはカリンも知っている人物で、今ここにいるのもおかしくはない人間だった。
「見た通りだ、文句はあるか?」
セイネリアが言えば、やってきた小柄な影――魔法使いケサランもまた不機嫌そうだった顔を更に顰めた。
「あぁ……分かった、が……」
「まだ納得いかないか?」
「分かってる、そこは約束だ、彼女に限っては貴様の一部として認めてやる。ただし、そちらも分かっているな?」
「当然だ」
カリンには二人のやりとりの意味は分からない。
とはいえそれで話は纏まったらしく、主はカリンの前までくると僅かに笑って頭に手を乗せてくれた。
「怖かったか?」
「いえ」
カリンは笑う。
「ボスがそこにいろというならそれで間違いない筈ですので」
セイネリアの手がカリンの頭をくしゃりと撫でる。それから彼はまだ不満そうな顔をしている魔法使いの方を向くと声を上げた。
「言った通りだ。カリンは何があっても俺の命令をきく。俺が言うなと言えば何を知っても絶対に他人に漏らすことはない」
「分かったと言ったろ、確かに並みの信頼関係ではないのは了解した」
そこでカリンは主に聞いた。
「あのボス、どういう事なのか説明して頂いても?」
聞きたい事は聞いていいと言われている。ただし聞けなかったとしても問題はなかったが。
「あぁ、俺は魔法使い共からいろいろ人に言ってはならない話を聞いている。だが今後それをお前だけには話してもいいことにしてくれと言ったのさ。お前は俺の一部のようなもので俺の命令には絶対従う。俺が言うなと言えばお前が他人に秘密を漏らす事はない」
「はい、当然です」
カリンが即答すれば、セイネリアはまたカリンの頭に手をおいて撫ぜていく。
「だが魔法使い共がそれを信用出来ないと言ってな。だから証明してみせればいいだろうという事になって……さっきの状況を作った訳だ」
だから茶番なのかとカリンはやっと理解した。
「あんたの覚悟は理解した。だから認めるが……本当に特例だからな、そして当然、もし何かあれば……そっちの条件も分かっているな?」
「分かっている」
だがカリンとしてはその言葉は聞き流せなかった。
「もし私が漏らすことがあれば、ボスに何か起こるのですか?」
「あぁ、こちらの言う事を一つ聞いてもらう事になってる」
魔法使いの返事にカリンの顔から血の気が引く。自分のせいで主に何かあるなんて絶対にあってはならない事だった。だがこちらを見たセイネリアは冷静に、なんでもないようにカリンの頭を撫でて言った。
「問題ないだろ、お前が俺の命令に従わない事はあり得ない」
「ですが……、もし魔法などで読まれる事があったら……」
カリンが自ら秘密を漏らすことはあり得ない。だがリパの告白術やアルワナの術など、自分の意思と関係なく漏らす事がないとは言えない。ボーセリングの犬としてそれについても一応訓練はしているが……。
「それならそれこそ、お前をその状況に追い込んだ俺の責任だろ」
それを聞いてカリンは覚悟を決めた。ならば、どうしてもその状況に陥ったなら自分は自害すればいいだけだと。『犬』として術に僅かの間だけ抵抗出来るようにする訓練は、もともと自害するためのものだった。
ただ……主に死ぬなと言われているから自害する事に迷いがあっただけだ。それも我ながらおかしいと思うが。
「だから問題ない、違うか?」
カリンはそれに今度は笑顔で答えた。
「はい、その通りです」
次回からはセイネリアの回想で、この件で魔法使いとどう話をつけていたか、という話。




