表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の主  作者: 沙々音 凛
第十四章:予感の章
698/1191

20・迎え1

 カリンが名目上は組織のトップとなった時から、セイネリアからは極力ひとりでは出かけるなと言われていた。カリンの立場は自分で動くのではなく人を動かす立場だから、前のように調査に自ら出かけたりはしないで基本は部下を使う事、どうしても自分が動かなくてはいけない場合でも部下を連れて行き、部下を犠牲にしてでもお前は生きて帰れ――そう言われていた。だから冒険者事務局の伝言程度なら部下に取りにいかせろと言われていたくらいだ。


 それなら自分より上の立場のあるじが一人で出歩いて『死んだらそれまで』というのはおかしいのではないかと言ったのだが、そうしたら彼は『だから俺が何時死んでもいいようにお前は自分の身をちゃんと守ってろ』と言われてその理不尽さには少し主に抗議した覚えがある。

 それは不満だったというより……単にもっと、主にも自分の身を大切にしてもらいたかったからだが。


 だからこの伝言の内容はおかしい、とはカリンは思う。


 だが冒険者事務局からもってきた伝言で、例えば主の名を語った何者かの伝言にすり替えられているという事はまずあり得ない筈だった。魔法使いならそんな事も出来るかもしれない……とは思えても、魔法使いがカリンに何かをするなんて主を怒らせるような事をするとも思えない。


 とはいえ、カリンとしてはその伝言通りにするのは確定事項で、行かないという選択肢はあり得なかった。あの主の事だから何か特別な話か、その場所だからこそ見せられる何かがあるとも考えられる。

 指定の場所は街の南門から出てすぐにあるいわゆる南の森の中で、少し奥の方だから他の冒険者が傍にいる可能性は低い。馬に乗ってこいという事だから迎えに行くという目的自体は間違いないだろう。疑問が残るのは確かであるが、それよりも帰ってきた主に真っ先に会えると思えば心は浮かれる。


 指定されていたのは午前休みの鐘が鳴る時間。流石にここから大神殿の鐘が聞こえはしないが、冒険者支援石を見ていれば鐘の時間に合わせてリパ大神殿を示す方向側が光るから確認はできる。

 だから少し早めに来て待っていたカリンは馬から降りて、目印の木の前で冒険者支援石を見ていた。勿論見ていたのは支援石だとしても周囲への警戒は怠ってはいなかったし、特に音にはかなり注意していた。


 それもあって、異変にはすぐ気が付いた。


 セニエティの南に広がる南の森は、街のすぐ傍にあるだけあって危険な動物や魔物はまずいない。少しでも危険そうな物を見たという話があれば街にうじゃうじゃいる冒険者がこぞって倒しに行ってくれるし、本気で危ない化け物レベルなら即上級冒険者達に討伐依頼がいく。だからこそ初心者が安心して薬草を採取したり小動物を狩ったりできるのだ。


 つまりカリンくらいの腕の者が危険に思うような敵はいない筈で、カリンも警戒はしていたが戦闘用の装備という程の準備はしていなかった。

 けれどこの気配は……かなり嫌な予感がする。

 やがて地面に響くドス、ドス、という重い振動を感じるに至って、カリンは暴れる馬の手綱を放した。


 両脇の短剣を抜いて構える。勿論無理に戦うつもりはなかった。ただここにはセイネリアが転送でやってくる筈であるから、少なくともその『何か』をここから遠ざけておくくらいはしておかなければならない。


 やがて、それは姿を現した。


 見てすぐ、カリンはまともに戦う事は考えから外した。何故ならそれは背に甲冑を背負った大トカゲのような化け物で、どう見てもカリンの持つ武器ではダメージを与えられると思えなかったからだ。


 となればやれる事はひとつ、ここからこの化け物を移動させること。

 もうすぐ主がくるこの場所にこんなものをおいてなどおけない。主ならこの化け物でもどうにか出来るとは思うが、移動してきた途端目の前にいたという状況ではすぐ対処できない可能性がある。


――この手の化け物なら足は速くないというのが定番ではあるが。


 とりあえず今見ている足の速さであればカリンが追いつかれることはない。ただこの化け物の全力のスピードは分からない。

 化け物が近くまでやってくる。向うもこちらを見つけたのか顔を少し下げてカリンに視線を固定し、すこしゆっくり近づいてくる。

 だからまず、カリンは化け物から見て横方向へと走り出した。そうすれば化け物は足を止め、首だけを動かして目でこちらの動きを追う。そこでカリンが一度立ち止まってみればとドシンドシンと重い音を立てて方向転換を始めた。その動き自体は鈍い。ただ化け物もまだ警戒してこちらの様子を見ているだけだから反応が鈍い可能性はある。

 なにせ化け物はこちらを向きはしたものの、すぐにこちらにむかってこなかったのだから。

 こちらが動かないから動かないのかと思って数歩後ろに下がってみたが、それでも化け物は動かず見ているだけで、カリンは眉を寄せた。


ってことでカリンがちょっとがんばります。化け物は例のアレです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ