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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十四章:予感の章
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18・故郷3

「よし、ほらすぐ調整するからさっさと着やがれ」


 ケンナ自身のせいで着るのを中断したのに手を離した途端そう言ってきて、だがやはり文句をいう気もなかったからセイネリアはまたしゃがんで装備をつけだした。勿論彼の方も待っているだけではなく腕の装備をつけようとしてくる。ただ彼の場合、つけながらも頭の中は作る時の事を考えているからか、『これじゃ短すぎる』とか『ここも足りねぇ』とか呟きがやかましいくらいだったが。


 ケンナみたいな根っからの職人気質の男は好きにやれればそれだけの結果を出す。だから一通りの装備がつけ終わってから、メモ書き用ボードを準備した彼にセイネリアは聞いてみた。


「そういえば、あんたとの約束なら先払いのあの鎧分以外、全部タダで作ってくれるという話だったな」

「分かってる、二言はねぇよ。賭けはお前の勝ちだからな、お前はからはビタ一文貰うつもりはねぇ」


 そう言ってくるのは分かっていた、だからこちらも言う事があった。


「いや、全部あんた持ちだとあんたの資金が足りなかった場合妥協される可能性がある、だからその場合はこっちに請求してくれ」

「それじゃ約束と違っちまう。こっちがそれで約束したんだ、足りなきゃどうにかするからお前は気にすんじゃねぇ」

「だめだ」


 ケンナは不機嫌そうに口を曲げる、セイネリアはそれに笑ってみせた。


「言ったろ、俺は命を預けるモノにはケチりたくないんだと」


 言うとケンナはそれを思い出したのか、表情から少し力が抜ける。


「金がなかったなんて理由で妥協されるのは嫌なんでな、あんたには金を考えずに最高のモノを作ってもらいたい。だからあんたが用意してたモノよりもっと金を積めば上を目指せるというならこっちに請求してくれ、その代わりあんたは必ず現時点で作れる最高のものを作る。……昔の約束に拘るより『最高のもの』のためにはその方がいいと思わないか?」


 ケンナはそれを黙って聞いていたが、言い終わると同時にに、ハッ、と大きく声を上げた。それから間もなく笑い声を上げて、最後には大声で笑い出した。


「はん、確かに俺は際限なく金を使える程の金持ちじゃねぇからな、限度は当然あるわな。だがお前はその限度以上を望んでるって事だな」


 ケンナが瞳を光らせて、まるで挑むように言ってくる。勿論セイネリアはそれに笑って即答する。


「そうだ」


 ケンナは更に笑う、楽しそうに、いっそ狂気さえその目に浮かべて。


「はははは……あぁいいねぇ、ガキの頃からやべぇ奴だったが、期待以上に物騒な男になったもんだ。噂は聞いてるぜ、セイネリア。実を言うと偶然その名の噂を聞いた時からな、まさかあの時のガキなんじゃねぇかってずっと思ってはいたんだ。お前は生きてるなら絶対噂で聞こえてくるような男になる、ずっとそう思ってたからな」

「俺もあんたを一目見て、あんたなら他の奴に作れない最高の装備を作ってくれるだろうと確信したさ」


 それにケンナは笑いを止める。だがそれは単に大声の馬鹿笑いと止めただけで、ククっと軽く喉を揺らすと狂気じみた笑顔を浮かべてこちらを見た。


「あぁ、正真正銘、他に見た事がない最高傑作ってやつを作ってやる」


 その言葉に疑いはない。彼が期待を裏切る事はないだろうとセイネリアは思った。なにせ彼の顔を見た時もそうだが、ここへ来て並べてある出来合いの品を見て、更には合わせ用の装備に触って確信していたからだ。

 彼と会った当時はまだ自分は未熟過ぎて一部しか彼の作った品の良さを分からなかった。だが今ならその腕の凄さ……というより彼の作る品々のおかしいレベルの作り込み具合が分かる。少なくとも冒険者になってから見たどの品と比べてもまったく別モノだと言えるくらいデキが違う。確かに今も見栄えがするような作りはしていないが、触って持ってみればどれだけ『使う』時に拘って作っているのか分かってしまう。


 おそらくセイネリアは使い捨てのもの以外、装備類は今後彼からしか買わないだろうとそう思った。


ケンナとのシーンはこれで終わり。流石に装備が実際出来上がるのは春以降になります。

次回からはカリンの話。

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