表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の主  作者: 沙々音 凛
第十四章:予感の章
692/1198

14・去る前に2

「だからこっちから呼び出してこうして礼をしてるんだろ」

「酒ぐらいで誤魔化されるかよ」


 言いながらも酒を飲めば唇が緩んで嬉しそうな顔になるあたり、まったく人がいいとセイネリアは思わずにいられない。


「酒ぐらい、という値段の酒じゃないんだがな」


 それにはバルドーの顔が軽く引きつる。


「そこまで高い酒なのか」

「だから言ったろ、貴族でも普段飲みはしないくらいの酒だぞ」


 バルドーは手の中のコップの中身を見つめてからこちらを見つめる。この酒は、ワラントの後を継いだセイネリアに祝い代わりと言って他の組織のボスから贈られたものである。少なくとも平民出の一般冒険者なら一生飲む事はないくらいの酒である事は確かで、値段を言ったら彼は飲めなくなるかもしれない。


「何者だよお前は……」

「今はまだ、ただの一冒険者だ」

「上級冒険者様ってだけで『ただの』はおかしいだろ」

「『ただの冒険者』さ、この程度は他にもいる」

「名前聞いただけであちこちの連中が震えあがるくらいの有名人がか」

「そうだ、権力者から見れば『ただの冒険者』の一人だろ」


 それにはバルドーは溜息をついて、軽く頭を押さえてみせた。


「……ったく、ほんっとにどこまでも不穏で物騒な奴だな」

「あんたもやっと縁が切れて嬉しいだろ」

「まったくだ、お前のお陰でウチの隊の平穏がふっとんだ」

「俺がこの隊に入ったのは不運だったな」


 セイネリアは笑う、バルドーも即座に『まったくだ』と言い返して笑っていたが、暫くすると笑いを収めて黙って外を見た。


「不運、とは思ってねぇよ。お前のせいでウチの連中は変われたからな」


 言ってからちびりと酒を飲む。一杯目は勢いで飲んでしまったようだが、二杯目からは酒の価値を聞いて言われた通り相当ゆっくりと味わって飲んでいるらしい。


「俺はひっかき回しただけだぞ、変わったのはあんた達が自分で気付いたからだ」

「何言ってやがる、お前の謙遜はうすら寒いんだよ」

「謙遜じゃない、あんた達に不必要に感謝されたり恩に思われたくないだけだ」


 それにはまた、バルドーが嫌そうに顔を顰めてこちらを見てくる。

 それからガクリと項垂れると、やはり頭を押さえてため息をついた。


「お前、ひねくれ過ぎてるだろ」

「それは間違いない」


 そうすれば『けっ』と言ってから、彼は改めてこちらの顔を睨んできた。


「あのな、隊の連中も本当は別にお前の事を嫌いたくなんかないんだぞ。トーラン砦の件でどんだけお前がいてくれて助かったかってのは皆痛いほどわかってる、だから本当は皆お前に素直に感謝してたいんだ……だから皆、現状が後ろめたくて俺に相談してきやがる。お前が一言謝れば皆笑ってお前を受け入れるんだ……」


 そこまでまくしたててから、急に彼の声のトーンが落ちる。


「だが……お前はそれを望んでないんだろ」

「そうだ。あんたがそれを分かってて現状維持にしてくれてるのには感謝してる」

「本っっ当に嫌な奴だよお前は」


 思いきり憎々し気にそう言ってから、バルドーは手に持っていたコップを、ダン、と音が出るくらい乱暴に置いた。


「……ったくよぉ、そういや聞いたぞ、お前、あのサボリ組に『いざという時に助けてもらいたかったら普段から皆と仲良くやっとけ』みたいな事いったんだって? どの口が言うんだ、貴様は自分から嫌われてやがるくせに」

「俺は人に助けてもらう必要がないからな、嫌われるのはメリットの方が大きい」

「っとに、なんでお前はいつもいつもそう自信と余裕があり過ぎるんだ」


 酔っているのかバルドーの顔は僅かに赤い。彼は言いながら酒を喉に流し込む。置いたコップにセイネリアは酒を注いでやる。


「常に自信がある訳じゃない、そう見せてるだけだ」


 だがそう言えば彼の表情が変わる。文句を言おうとしていた口を閉じて、気まずそうにまた外に視線を移した。


「……グティックとの話を聞いてたんだろ?」


 そう聞けば、バルドーはそこでまた大きく息を吐くとこちらを見た。……やはりまだ気まずそうに。


「まぁな、お前が実はとんでもないペテン師だって話も、余裕綽綽に見えていろいろポカやらかしてたって話も――」

「それで、俺が辞めるのを知ったんだろ?」


 バルドーは肘をついて不機嫌そうに顔をその手に乗せる。


「あぁそうだ。ってかそういう話なら俺にまずいうべきだろお前は。どれだけ俺がお前のためにいろいろ手ェ回してやったと思ってるんだ」

「だから、こっちから呼び出して礼をしてるんじゃないか。あんたにはここでは一番世話になったと思ってるさ、感謝する」


 我ながら白々しい言い方だと分かっているが、彼はそこで更に顔を顰めた。


「はん、どこまで本気か信用できねぇな。そもそも心から俺に感謝してるお前が想像出来ねぇ」

「それはそうだ。別に心から感謝してる訳じゃない」


セイネリア、相当性格アレですね。

ちなみにバレバレだったと思いますが、グティックとの会話をこっそり聞いてたのはバルドーです。

とりあえずバルドーとの話は次回で終わり。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ