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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十四章:予感の章
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6・約束の勝負2

 こちらの体力が尽きる前に向うの体力をすり潰す。受け流せない状況を作り続けていく。

 大振りをせず、距離を詰めて、相手の正面、体の芯を狙う。外に逸らせるような微妙な角度で当てにいかない。左右から相手の体中心を狙って斜めに斬りつければ横に逃げるのは難しい。受け流すよりも受けざる得ない。

 セイネリアは自分の優位点をよくわかっていた。だから自分の得意分野でとことん相手を押し切る、それで負けるのなら仕方ない。


 ギン、と高い音が刀身同士がまともにぶつかった事を辺りに知らせた。

 思った通り受け流せず力で受けたステバンを見て、セイネリアの口角が上がる。だがそこで押し込みはしない、力勝負に持っていけばただ逃げられる。だからすぐに剣をまた振り上げて今度は逆サイドから振り下ろす。ステバンはそれを受ける、剣を立てて歯を噛み締める……それでいい、ここまではただの確認だった。


――ここからだ、全部受けろよ。


 また逆から力を入れて受ける相手の剣を叩く。だが今度はその後が違う。

 振り下ろしたら左手を押して剣の重量をコントロールし、すぐ軌道を変えて剣先を上に上げまた振り下ろす。剣先は止めない、振り下ろした後振り上げるなんて無駄は動作はしない。手首を返して軌道のコントロールだけで横に8の数字を描くように左右から交互に振り下ろす。身長はセイネリアの方がある、だから振り下ろす動きだけでも相当に力とスピードが剣に乗る。

 勿論、ステバンの剣に当たる度に一度こちらの剣の勢いは削がれるが、彼も受け止めきらずに逸らすから剣先はそのまま走る。そうなれば大して力を入れなくても自然と剣の速度が上がっていく、叩いた時の威力が上がっていく。


 正面へ来た剣を横に逸らすのは難しい。特に左右交互からくれば余程遅くないと横へは逃げられない。

 だからステバンは後ろへ逃げるしかなくなる。

 剣を受ける度に少しづつ彼は後ろへ下がっていく。ただ彼も単に押されて後ろへ下がるだけではなく、回り込もうとするように横へもスライドしつつ下がるから、足跡が円を描いていく。


 セイネリアが振る剣は尚も加速していく。こうなってくると止める方が難しく、切り返しを失敗すれば剣がすっぽ抜けて飛んでいく可能性もあった。だから掴む力に注意して、ひたすら剣で相手の剣を叩いて追い込む。

 ステバンはひたすら受ける。一応受け流してはいるが角度的に必ず一度はまともに受け止めなくてはならず、腕へのダメージは確実に蓄積されている筈だった。その証拠にステバンの剣は受ける度にじりじりと微妙にその受ける位置が変わっていた。最初の内は刀身の中間辺りで受けていたのに、徐々にその位置が下になっている。

 剣の下の位置で受けたほうが力が入るのは常識だが、その位置で受けないと受けきれないという事でもある。

 つまり、確実にステバンの腕へのダメージが積まれている。腕の力が入らなくなっていっているという事だ。


 とはいえ、セイネリア側もこれ以上剣速が上がると制御しきれなくなる、どこかで緩めるか、あるいは――。


「うおぉっ」


 ステバンが吼えて受けた剣を押してくる。

 同時にセイネリアも速度に任せて叩くだけではなく腕に力を入れて剣を押し込んだ。

 この場合、純粋な腕力差だけではなく、身長差の分セイネリアの方が下へと押せる分有利ではある。そのまま力勝負をするならセイネリアの方が勝つだろう。


 ただしそんな事はステバンなら当然承知している。


 現状打破のために押し込んだと同時に相手も押し込んできたのを察してすぐ、ステバンは逆に腕の力を抜いた。勿論抜いたといっても急激にではない、いきなり力を抜けば押し切られてステバンは地面に転がるしかなくなる。彼は押し返しながら体を横に逃がして、無理矢理こちらの剣の力を逸らす方向へ向けると同時に力を抜いたのだ。


 さすがにセイネリアもガクリと前につんのめりそうになった。剣のスピードが乗っていた分、自分の力以上に前にいこうとする体を抑えるには足に相当力を入れなければならない。


 ステバンはそれも狙っていた。

 横へ逃げたのは体だが片足はその場に残っている。それが、前に出して倒れまいと踏ん張っているセイネリアの右足を引っかけて払った。


 足が一瞬だけ浮いたのを感じてセイネリアは剣から左手を離した。

 倒れ込む体をその左手を地面について支え、左足に力を入れて耐える。それでかろうじて地面に転がる事は避けたが体勢は大幅に崩れている。だから右手だけで持った剣をステバンの方に向けて振り払った。これでステバンはこの隙に接近できない。ついでに振り回した剣の勢いも使って体を起こす。立ち上がって、セイネリアの方から距離を取った。


 改めて互いにむき合えば、二人とも肩で息をしていた。

 だが目があった途端に上下に揺れる肩は両者ともピタリと止まった。そして互いに口角が上がる。


「馬鹿力め、片手で振り回すな」

「力だけが取り得だからな」


 セイネリアの言葉にステバンの口元が更に笑う。セイネリアも歯を見せて笑う。

 けれどその笑みは同時に消える。そうして同時に深く息を吸い、吐き出す。それから同時に踏み込んだ足から前に飛んだ。


戦闘シーンオンリーな回でした(==;いや書いてたら楽しくてつい長く……ごほごほ。

ただセイネリアサイドでの描写は次回途中までで一旦視点が切り替わります。


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