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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十四章:予感の章
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5・約束の勝負1

 ステバンはいわゆるバランス型でどの項目においても優秀で弱点がないタイプだ。勿論突出したところがないというそれ自体を弱点と取る事も出来るが、全てが優秀な相手は崩すのが難しい。

 だからそういう相手の場合は互いに決定打が与えられなくて持久戦になる事が多いのだが、そうなればセイネリアの勝ちがほぼ確定する。理由は単純に、セイネリアが力と体力の部分でステバンを大きく上回っているからだ。

 だから戦いが長引けば長引くだけステバンの方が不利になっていく。彼もそれをよく理解していた。剣を受けるだけで腕の疲労が蓄積していく、吹っ飛ばされるのを耐えるのもダメージを軽減するために自ら後ろへ飛ぶのも足の疲労を引き起こす。


 だからおそらく彼は考えた、圧倒的な腕力を持つ相手の攻撃を最小限の体力消耗でしのぐためにどうすればいいのか、と。


 セイネリアが剣を伸ばす、ステバンは刀身同士を合わせはするが正面から受けたりはしない。合わせる剣の角度を調整して刀身同士を滑らせ、こちらの剣の軌道を変えて横へと逃がす。叩かれた力を刀身で全て受け止めないように絶妙に力の入れ具合を調整して逸らす。おかげでこちらは手ごたえが薄い。

 逃がされても無理に軌道を戻して叩けば、それを剣で受けはしても押し返したり耐えようとせずその力に押されるまま横へ退いて逃げる。

 かといって受け流すのが難しい程力を込めて大振りすれば避けて懐へ入られるのは目に見えていた。


 つまり、彼が出した答えがこれだ。


 相手の剣を最小限の力で受け流し体力の消耗を抑える。セイネリアの腕力と体力はステバンを圧倒しているが、ステバンよりも消耗が激しいのなら先に崩れるのはセイネリアの方となる、と。


――ファンレーンと言ったか、彼女の戦闘スタイルだな。


 競技会では当たる事がなかった女騎士の名前がセイネリアの頭に浮かぶ。セイネリアが見たのはステバンとの試合で、勝ったのは彼だったが試合が終わって地面に膝をついたのも彼の方だった。


――確かに理にかなってるか。


 この状態で避けられやすい突き攻撃は使い難い。受け流し難いのは力の入った、出来る限り相手の体の広範囲を通る軌道。ただし避けられたらすぐ戻せないような大振りをしてはいけない。

 だから極力剣を引かずに、軌道の修正だけで彼の体を叩く。剣の勢いがつけられない分腕力で振りぬけば、彼は一度剣の根元近くで受けた後滑らせて左に逸らす。同時に体も剣の流れのまま左側を引いて極力腕への負担を減らす。


 受け流そうとする彼の動きは、避けるために前のように大きく後ろに飛び退いたりはまずしない。セイネリアが剣を押し込むように前に出れば、彼は一度引いた左足の反動を使ってその足でこちらの足を蹴ってくる。その程度の攻撃で体勢を崩すセイネリアではないが、それでも疲労が溜まってきたら分からない。だからその前に決着を付けなければならないだろう。


 ステバンとしても蹴りがセイネリアに効かないのは想定の上だからか意地になって再び蹴ってくる事はなく、前に出てしまったセイネリアの横をすり抜けて後ろへ回り込もうとしてくる。

 勿論、そうはさせない。

 こちらの横を抜けようとするステバンに剣は間に合わない。だから肩からぶつかっていく。すれ違おうとこちらの横に来た彼に体当たりを仕掛ければ、さすがにそれは想定していなかったのか彼の体が大きく弾かれ、彼は倒れないように大きく自ら飛びのかないとならなかった。

 そうなれば彼も仕切り直しをしない訳にはいかず、一度距離を取って対峙する。

 セイネリアは大きく息を吸って、彼の顔を見た。


「巧いな、あの女騎士を参考にしたか」


 言えば、彼も肩を上げて大きく呼吸をするのが見えた。


「あぁ、暫く彼女に弟子入りした」


 彼が笑った気配がしたからセイネリアも笑う。競技会で自分に負けた相手に教えを乞う、というのが彼の凄いところではある。勝者として己惚れていない、どんな相手でも優れているところは優れていると認めて自分に取り込める、伸びる人間の条件だ。

 それこそプライドだけ高い頭の固い馬鹿なら、力がない女の剣と彼女を馬鹿にするだけだろう。


「得物が違うのによくモノにしたじゃないか」

「生憎モノにした、というところまではいけていないんだ」

「それで十分だろ、あんたもモノマネをしたい訳じゃない筈だ」

「あぁ、確かにそうだっ」


 言うと同時にステバンから仕掛けてくる。セイネリアはその剣を受けたが勢いの割りにそもそも手ごたえが軽すぎた、いかにも受けさせるための剣だ。だからあえて受けた後に強引に力で押し込む、軽く弾かれる事を想定していたなら体勢を崩す筈……だが、彼は一瞬だけそれを全力で受け止めてから剣を強引に横に逸らして逃げた。


 こういうところが、あの女騎士より彼の方が厄介だと言えるところだ。

 受け流す一辺倒ではなく力で受けるところは受ける。彼が受け流すのはあくまで出来る状況でだけで、力で押し切ろうとすればそれなりに力で対抗してくる。


 これにセイネリアが取れる手段は――やはり、力で押すしかない。


ってことでここから数話はセイネリアとステバンの勝負です。

がんばれステバン!(あれ?)


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