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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十四章:予感の章
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4・申し入れ

 切り替え時期の作業が一段落すれば、予備隊では遠征訓練が一度行われる。これは荷物を持って遠出をして野営をしてくる訓練だが、長い休暇で鈍っている連中を引き締める意味があるらしい。実際各予備隊の訓練時の怠けぶりを知っていればなかなかいい案ではあるのかもしれない。

 それが終わると街や城の施設の補修作業の手伝いが割り当てられたりと、春の騎士団員はそれなりに忙しい。だがその期間が終わればやっと予備隊は通常業務――つまり、訓練とたまに事前調査等の仕事が入るだけという状態になる。


 その時期を待っていたのかステバンから試合の申し入れがあったのは、予備隊の予定が訓練だらけになって守備隊の連中が試合をしに尋ねてくるようになって間もなくの事だった。


 正式な試合という形式をとると手続きが面倒なため、勝負はあくまで訓練中の模擬試合という事にした。一応仕事時間が終わってから二人だけでこっそりやるのも考えたが、それでどちらかが大怪我、もしくは相打ちもあり得たから止めた方がいいだろうという事になった。


 ただ出来る限り思いきり勝負が出来るように、突発の模擬試合よりは事前にいろいろ取り決めておいてその日は朝から準備をしていたから、その様子で他の連中も何かおかしいことは察していた。

 その中で追加防具を付けて兜まで持ってきたステバンがやってくれば、周りの連中もこれから本気の勝負が始まる事を理解する。

 ざわつく連中が遠回りに見ている中、セイネリアとステバンは挨拶代わりに拳を合わせた。


「流石に正式な試合のように神官を待機させる訳にはいかないからな、多少の不便は仕方ない」

「分かってる、だから事前にちゃんと調節はしてきた」


 業務時間内なら騎士団には一応常駐のリパ神官がいるから怪我人が出たら応急措置程度の治癒は掛けて貰える。とはいっても試合のように張り付いている訳ではないから、緊急を要するような大怪我をする訳にはいかない。

 だから今回は双方ともに練習剣を使用する事にした。

 しかも前日から剣を選んでおいて各自調整をしておいた。勿論調整といっても、やれることは重量バランスのために柄頭ポンメルを変えたり、グリップに布等を巻く程度だが。

 ただし、セイネリアの場合それはあまり意味がなかったが。


「そもそもここにある剣は俺には軽すぎてどれも使い勝手が悪い。調整でどうにかなるものでもなくてな」

「そうか……仕方がないが、本来ならベストの装備の君と戦いたかった」

「俺のベストの装備と言うなら、あとは腕を隠す重いマントと左腕には剣を受けられるだけの装備も必要になる」


 セイネリアは冗談めかして言ったが、それを聞くとステバンは心底残念そうに言った。


「意図が分かるだけにそれらがないなら結構戦い方が変わるだろ。本来ならかなりのハンデじゃないか」

「気にするな、装備でも『やれることは何でもやる』ようにしているだけだ。それがないと困るような戦い方をしてる訳じゃない。それに剣も……戦場じゃイカレた剣を捨てて拾った剣でも戦えるようにしないとならない、だからこれも実戦的だ」


 いいながらセイネリアは準備しておいた追加防具を付け出す。その言葉に笑いながらステバンも自分の装備を改めて確認していた。

 そうしている間に、ちらちらとこちらを見ていた連中がこれから試合が始まるらしい事を知って訓練の手を止めて集まってくる。気付けばぐるりと周囲を囲まれて完全に観戦状態にされていたが、これは想定していた事だから仕方ない。


「一本勝負、本気の全力勝負だからな」


 正式試合と違ってこういう時の勝負は当然ポイント制ではない。戦闘続行不能か、降参か、外野から見て明らかに勝負がついたと思うまでだ。


「あぁ、一本くらいは取られてもいいなんて考えたら俺には勝てないぞ」

「まったくだ……分かってるさ」


 言って今度は互いに兜を付ける。それで双方ともに準備は整った。


「誰か、開始の合図だけを頼む」


 ステバンが言えば、周囲を囲んで座っている中からバルドーが立ち上がった。

 それを確認してステバンとセイネリアは距離を取った。

 そうして間もなく――。


「はじめっ」


 バルドーの声と共に、セイネリアとステバンは同時に前に走った。


ってことで次回からセイネリアVSステバンの試合場面となります。

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