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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十三章:騎士団の章二
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54・約束……だが1

 ステバン・クロー・ズィードは悩んでいた。

 第三予備隊がトーラン砦で大きな功績を上げ、蛮族達に当分は攻めてこれない程のダメージを与えたという話は噂で聞いてはいた。そしてつい先日、無事一人も欠けることなく帰ってきたという話を聞いて心底安堵したのだが……それと同時にステバンは焦った。


 なにせステバンは、まだあの男と勝ちを狙って戦える程の準備が出来ていなかった。


 勿論、真面目な彼がサボっていたなんて事はなく、訓練外でも時間さえあれば鍛えていたし、どうすれば勝てるかといろいろ考えてもいた。けれどたかだか二月ふたつきと少し程度でそう簡単に強くなれる訳はないし、ましてやあれだけ『勝てない』と思える相手との差がそうそうに縮まる筈もない。


 けれど彼には試合はあと1度と言われてしまっている。


 となればステバンとしては納得が行くところまで自分を追い込んでからお願いしたいところだが、彼との約束は『帰ってきたら』でもあるから期限はもう来ている――という訳で、ステバンは未だに帰ってきた彼に会いにいけないでいた。


 だから第三予備隊の方へ行った者達に様子を聞いていたのだが……昨日ステバンは昼間に試合をしに行ったソーライからある話を聞いて今日はずっと考えていた。

 それで仕事に身が入らずどうにも気になって仕方なかったため、意を決してステバンはセイネリアと話す事にした。今日も試合に行くといったソーライに伝言を書いたメモを渡し、前に彼を呼び出した時と同じ時間、同じ場所で待っていた。


 待ち合わせには必ず時間前にいる事にしているステバンは当然少し前からいた訳だが、彼はきっちり指定してあった宵終わりの鐘と共に現れた。


「元気そうじゃないか」


 こちらを見た途端そう言ってきた男は、前に見た時と特に変わったところは見当たらなかった。割合軽口だが目は笑っていなくて自信に満ちている、底知れない不気味さを感じて正直考えが読めない――ステバンが今まで会った事がないタイプの男そのままだった。


「急に呼び出してすまない」

「いや、別に問題ない。休日とその前後でなければいつでも暇だ」


 それは予備隊の状況を皮肉ってのものである事はステバンも分かっていて苦笑する。


「で、用件は何だ?」


 だがすかさずそう聞かれてステバンの表情はこわばった。

 どう、話を切り出すべきか――ステバンが彼を呼び出したのは不穏な噂話と、それを裏付けるようなソーライからの話が原因だった。


『第三予備隊がトーラン砦に飛ばされたのは、セイネリア・クロッセスがハリアット夫人に手を出したかららしい』


 実をいうとその噂自体は、第三予備隊のトーラン行が決まった時から聞いていた話ではあった。ただ頭の良い彼のことだからいくら女好きと言ってもそんな愚かなマネはしないだろうとステバンは思っていたし、多少孤立していると思われるところはあってもそれは彼の性格を考えれば仕方ないところで、他の団員達から嫌われていたり避けられているようには見えなかった。だから所詮ただの噂話だろうと思っていたのだ。

 なのに、ソーライから聞いた話だと、砦から帰ってきて以後の他の隊員たちはセイネリアと妙に距離を取っている感じがあって、会話もせず、彼の事を聞いても気まずそうで、何かあったようだと言っていた。

 こちらに聞こえている話では、砦では第三予備隊がかなりの戦果をあげたという事だから……それで何か問題が起こったとは思い難い。


――今になって事実が発覚して、皆と揉めた……とか。


 真実を知りたくて勢いで呼び出したもののどう言い出せばいいのかが分からない。誤解されて喧嘩でもしたのなら力になろうと思ってはきたが、さすがにいきなりハリアット夫人との関係を聞くのはまずいだろう……と、考えていたステバンは、そこで背筋にぞわっと冷たいものが駆けあがってくるのに気付いた。


 考えるより先に体が危険を察する。

 反射的に後ろへ引けば、目の前を剣が通り過ぎていく。


 頭は混乱していたが、体を引くと同時にステバンは剣を抜いた。そうすればすぐに彼が切り返した剣がまたやってきて、今度はそれを剣で受けた。だがそこで抗議しようと口を開きかけたら、セイネリアが口角を上げてこちらを見た……と思った時にはそのまま剣ごと押し飛ばされて、ステバンは自ら後ろに飛びのいて体勢を崩すのをどうにか回避するしかなかった。


 だが休む間はない、すぐまた次の攻撃がやってくる。


 それでも今度は先程よりは余裕があったから、ただ受けるだけではなく体を逸らして剣を受け流す。ところが逸らした筈の刃がすぐ切り返されて戻ってきたからステバンは急いで剣を立てた。

 刃と刃が当たって鈍い音を上げる。ステバンは歯を噛みしめた。

 どうにか受けきったとほっと出来たのは一瞬で、向うはそこから力業で無理やり押してくる。こちらは無理な体勢であるから力勝負になれば勝てる訳がない。だから足で地面を蹴って剣を逸らしながらまた後ろへ飛んだ。


会話メインが続いたのでちょっと見せ程度の戦闘シーンを入れてみたり。次回即終わりますので戦闘シーンに期待はしないでください。


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