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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十三章:騎士団の章二
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41・想定外2

「うぉおぉぉぉっ」


 敵のいる小屋のある木まできたアグラックが吼える。

 下にいる彼を撃とうとして弓の一人が体を乗り出したから、すかさずセイネリアはそいつを狙った。短い悲鳴と共に、乗り出していた男がそのまま落下する。そこで焦ってもう一人が下を見ようとすれば小屋の周囲がカッと光る。アグラックが光石を小屋に投げつけたのだろう。セイネリアは咄嗟に目を瞑ったが少し光を見てしまったため目を押さえた。遠かったしまだ暗くないからそこまでのダメージではないが、暫くは木に寄りかかり目を使わず音だけで周囲の様子を探る事にする。

 何かぶつかるような音が数度、それに合わせてあがる声はアグラックの声ではない。

 予想するところでは、光に目が眩んでいる間にアグラックが小屋まで上って敵を殴り倒したか。


「グリューナっ、来てくれ、怪我人がいる」


 続くアグラックの声でおそらく予想は当たったのだろうとセイネリアは思う。だから目を押さえたまま声だけを上げた。


「まだ殺してないなら一人は生かしておいてくれっ」

「了解したっ」


 それには思わず笑みが湧く。この敵の弓の腕を考えれば恐らくはケイジャスの者だろう、なら捕まえる意味がある。聞きたい事があるのは勿論だが、ケイジャス人なら上の交渉によって生きて帰れる可能性がある分蛮族のように捕まるより死を選ぶ事はまずない筈だった。


 セイネリアのいる木の横を二人分の足音が駆けて行く。アグラックに呼ばれたリパの女神官ともう一人のレイペ信徒の男だろう。セイネリアもやっと目が治ってきたのを確認して立ち上がった。

 まだ目は完全に戻っていないから気配を探るのは目以外で、走らず歩いて敵の小屋へ向かう。途中、リパ神官が治癒しているのを見ればそこには例のクズ連中が4人揃っていて、情けない声をあげながらも神官に礼を言っていた。傍には神官の護衛らしいレイぺ信徒の男とグティックもいたが、グティックはこちらに気付くと立ち上がって近づいてきた。どうやら彼は怪我をしてなさそうだった。


「大丈夫か?」


 逆に心配されてセイネリアは苦笑する。


「あぁ、まだ少し残像が残っているだけだ」

「すまない、勝手な行動をして……」

「あんたが謝る事はない、どうせあの連中を追ってきたんだろ」

「そうだが、追う前に誰かに言っておけば良かった、俺の失態だ」

「そう思うなら次はそうすればいい。生きてたのなら失敗はあんたの糧になるだけだ」

「あぁ……確かに、そうだな」


 そこでやっと彼の声が明るくなる。

 セイネリアの方も目はほぼ治ったから前を向き、こちらに向かってくる重装備の戦士に声を掛けた。


「捕まえた奴はどうした?」


 小屋に掛かったはしごから下りてきたのは彼一人だけだったから聞けば、彼は小屋の方を指さした。


「あそこにぶら下げておいた、あれなら逃げられないだろ」

「成程」


 確かに小屋の下にロープで吊るされた男が見えた。


「結局、あそこにいたのは2人だけか」

「そうみたいだな、1人は落ちて死んだが」


 そこで横にいたグティックに顔を向ければ彼もまた答える。


「多分2人でいいと思う。少なくとも俺が来た時はあの2人しかいなかった」


 なら敵はもういないとして……セイネリアは少し考える――何かおかしい。

 そこでセイネリアは一度足を止めると、踵を返して治療中の連中の方へ向かった。


「おい、お前らが追っていたのはあの小屋の上にいた2人だったのか?」


 それにはビクリと怯えた顔をしたものの、既に治癒が済んだらしい2人が答えた。


「い……いや、追ってたのは3人で……急に上から矢が来たと思ったらあの小屋から撃たれて……」


 ようするに逃げた3人の敵を追っていたらあの小屋から攻撃されたという事か。ならあの小屋にいた2人は最初からあの場にいたという事になる。となればやはりおかしいとしかセイネリアには思えない。


――こんな外れた場所に、何のために見張り兵を置く必要がある?


「最初に追っていた3人は逃げたのか?」

「あ、あぁ、多分……逃げたと思う」


 嫌な感じがする。

 まず第一に、どうしてこんなところに見張り小屋があって弓兵が配置されていたのか。更に考えれば何故そこにいた弓兵はずっとこちらに対してただの足止めをしていたのか。逃げた奴らを追ってきたクリュースの人間は5人、その内4人は怪我をしていて走れる状態じゃない。撤退したいのなら矢でけん制しつつ逃げればいいだけだし、殺すつもりならこちらの4人が怪我をした段階で追われていた連中は反転して殺しにくるべきだ。何よりグティックが音を出して味方を呼んだのは分かったろうに、それでも尚ここで足止めをしている必要があったのか。


想定外、が起こるのはここからです。

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