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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十三章:騎士団の章二
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35・突撃1

 暗くなるまでの時間を考えれば、出来るだけ早く攻撃を仕掛けなくてはならない。

 相手の拠点を見て来たセイネリアは部隊に戻るまでの道中で、とりあえずそれぞれの隊がどう動けばいいかの指示を出しておいた。それもあって帰ってから改めて会議をする事もなく、質問だけ受け付けて割合すぐに行動開始となった。


「本気でこれが役に立つとはな」

「だから準備はしておくに越したことはないと言っただろ」

「まぁな」


 バルドーの呟きに、セイネリアは楽しそうに返す。

 今回、まず最初に突っ込むのはセイネリアも含んだ第三予備隊だ。例の板を担いで入口まで接近し、そのまま体当たりを仕掛けて入口を開ける。板に隠れられる人数的に傭兵部隊までを連れていくのは無理だが、扉が開き次第後続の連中もすぐ森から出てくるように言ってある。


「そんなに向うの弓部隊は厄介そうなのか?」

「入口の上には2人づつ4人しか見えないが、柵の向こうに結構いる。油断して行くと空から矢の雨が降って来るぞ」


 先ほど見に来た時、セイネリアはマントに重りの石と木片や落ち葉を入れてロープで縛り、それを連中の入口方面へ放り投げた。勿論、一人分ではなくその場にいた全員にも一斉に同じことをさせた。そうすれば台の上にいる者だけでなく柵の向うからも矢が飛んできて、それで柵向うにも弓役が配置されているのを確認した。

 更に言うなら、ロープを引っ張って取り戻したマントに刺さっていた矢の違いで上にいる奴はケイジャスの者で、柵向うで待機してる連中はダンデール族であるだろう事も分かっていた。正確に狙ってきた上からの矢は造りが良く、柵向うから撃ってきた矢は木の削りが粗いお粗末な矢であったからだ。


 入口を開けてからについては向うの出方によってどう動くか決めてある。

 待機している後続部隊は基本入口が開き次第突入だが、段階的にこちらの補助としてやってもらう事があるからその辺りは後衛陣に言ってある。後は状況の変化に合わせて一通りの指示は出してあるが判断は向う任せだ。

 とにかく、相手がどう出てくるか分からないなら、状況に合わせて臨機応変に動けるようにしておく必要があった。


「いくぞ」


 セイネリアが言えば、それぞれ板を担いで隠れていた森から出て入口へと向かう。先ほど試した時と同じように、まずは入口脇の木の上にいる者が何かを叩いて音を鳴らし、そこにいるケイジャス兵らしき弓持ちが矢を撃ってくる。続いて柵の上を越えて狙いがでたらめな矢の雨が落ちてくる。蛮族達の弓は柵の合間から撃ってくるのではなく柵の向こうから上方面に向けて撃ってきている、これは恐らく光石対策もあるのだろう。接近してくる敵の出鼻をくじくための弾幕となれば十分と割り切っている使い方で、ダンデール族が本当に弓慣れしていないのならこの指示は妥当だろう。


 ダンデール族は兵士としては頭が悪い。だが指揮しているのはケイジャス側でそれなりに頭が回る人間だ、そう考えれば――こちらが入口を突破した時に取る手は2パターン考えられる。ただこのいかにも突破してくれといわんばかりの扉を見ればどちらを取るかは決まっているようなものだ。


 矢の雨が落ちる中、板を背負ってセイネリア達予備隊の人間は走る。例の廃墟から持ってきた大きめの板は3枚。横に並んで進む中、セイネリアは中央の板の先頭にいた。堀を越え、そのまま板毎先頭にいる人間が肩から扉に向かってぶつかっていく。

 思った通り、作りが甘い扉は2度程勢いをつけてぶつかれば簡単に開いた。

 だがつまり、それは敵が向う側から扉を押さえていなかったという事でもある。


 中心から押された勢いのまま、扉が両脇へと開いていく。

 扉の先にいたのは横一列に並んだ弓兵。

 開くと同時に矢が一斉に放たれる。

 だがそれは、セイネリア達予備隊の誰にもに当たる事はなかった。


――やはり、なかなか指揮してる奴は頭がいい。


 蛮族側の弓兵側から見て、扉が開いた先にいたのはセイネリアただ一人だけだった。

 しかも板を前にしていたから、放った矢は殆どがその板に刺さった。

 更にはその時、頭上では光が弾けて悲鳴が上がっていた。入口両脇の木の上にいた連中に向かって、こちらの弓役が光石のついた矢を放ったのだ。これで上の弓は使いものにならない。


 セイネリアは大きな板を前に掲げたまま、前面の弓部隊に向かって単身駆け出す。

 前は見えない、だから音だけを頼りに走る。カカッ、カカッと矢が刺さる手ごたえを感じながら重みを増していく板を持つ手に力を入れ、刺さる矢を踏まないように足元には気をつける。

 遠く、近く、矢が風を裂いて慣れた音が横を通り過ぎていく。

 けれども近づくにつれて矢は飛んでこなくなる。代わりに悲鳴があがるのが分かればかなりの数が逃げ出したのだろうと予想出来た。

 敵の声で距離を測り、目前に来たと思ったところで板を前にしたままぶつかっていく。

 人数分の人間の重みが手に掛かる。板越しに悲鳴が聞こえる。歯を食いしばって思いきり板を押し込み、そのまま向こう側へ倒した。


 一際大きな悲鳴があがる。敵の群れに大判の板が沈んでいく。

 それと同時にセイネリアが右手を横に伸ばせば、その手には凶悪な斧刃を持つ魔槍が現れた。


ここでセイネリアが大暴れか……と思うところですが、次回はバルドー視点に切り替わります。

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