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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十三章:騎士団の章二
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32・準備として

 バルドーは思った、やっぱり奴はとんでもない大物だ、と。

 セイネリアを会議に呼んだ時点で最終的に彼が仕切る事になるのは予想出来たが、自分に指揮を取らせろとはっきり隊長に言い出すとは思わなかった。しかもその条件として責任は自分で手柄はいらないとか、あのふてぶてしい男が頭を下げまでした訳で……ともかく、その行動にも提案にも驚き過ぎて頭がついていけなくなった。

 そしていざ正式に彼が指揮を取る事が決まったと思ったら、一睨みで傭兵達も砦兵も完全に配下にした――と、バルドーはその時の事を思い出してぞっとする。


――あれが上に立つべき人間って奴なのかもな。


 なんというか、規格外ぶりを見せられ過ぎて生意気だとか無礼だとかいうよりまず呆れてしまうしかない。もう怒る気さえねぇよ、というのが正直な感想だ。


――ま、だが怒る気にならないのは……奴の自信が俺らの希望だからだな。


 バルドーが冷静に状況だけを見たところでは、こちらの旗色はかなり悪い。

 ダンデール族はケイジャスから相当の支援が入っていてどんな手を使うか分からない。蛮族の数がこちらより少なかったとしても、向うが守る側と考えれば決して楽観出来はしない。はっきり言って、指揮官があの隊長様のままならこれはもう死ににいけと宣告を受けたも同然だと思うくらいの状況だ。


 だがあの男が自信満々で『勝って生きて帰る』といえばそれが出来る気がするのだから――これはもう、あの男が上に立つ人間として必要な何かを『持っている』のだろうと思うしかない。


「何だあれ……」


 そこで目の前にいたグティックの呟きにバルドーは顔を上げて、彼の見ている方に目を向ける。そうしてバルドーもまた、同じ事を呟いた。


「何だありゃ」


 視線の先には木で作られた板……というか木の扉をそのまま引っこ抜いてきたようなのがあって、それがこちらに向かってくる。当然周囲はざわついているが、よく見ればそれを運んでいるのはジャネッツとセイネリアで、それでバルドーは一応察した。


「あれを取りに行ったのかよ……ってか何処から持ってきたんだ?」


 会議後、出発出来るかを治癒役のリパ神官に聞いたところ、まだ治療に掛かるからもう少し時間を欲しいと言われたのだが、ならば丁度いいと言い出してセイネリアはジャネッツと砦兵を一人連れて出ていっていた。

 何をするんだと思ったが、あの男がいる段階で問題はないだろうとあえて詳しくは聞かなかった。


「おい、何だそりゃ」


 声が届くところまできた男にそう言えば、セイネリアは持っていた板をおいてやはり何でもなさそうに答える。


「何、念のための準備だ。相手は槍だし、弓もいる可能性も考えてな」

「……てか、どっから持ってきたんだそんなのをよ」

「廃棄された昔の見張り小屋だ。この近くにもあると聞いたからちょっと貰ってきた」


――それで案内に砦兵を連れて行ったのか。


 確かに事前に砦兵の連中と何か話しているとは思っていたが、まさかそんな事を考えているとは思わなかった。


「少々荷物にはなるが、準備はあるに越したことはないだろ」

「少々どころの荷物じゃないだろ」

「だから二つは俺が持つさ、あとの一つは交代ででも運んでもらうしかないが」

「……ったく……分かってたが呆れた馬鹿力だな。お前ならそれを盾にでもして持ち歩きそうだ」

「そうだな、盾には丁度いい」


 それには乾いた笑いしか返せない。ただでさえ背のあるこの男でさえほぼ体を隠せそうな大きさの板を盾のように持って歩くなんてのは想像しただけでもシュール過ぎる。


「それに心理的な問題もあるだろ、目に見えた対策があると」

「対策ねぇ……」


 周囲を見渡せば、確かに何があるのだとこちらを見て皆ざわついているが、各自勝手に矢避けだとか解釈して盛り上がっているようだ。


――案外効果があるのかもな。


 目立つデカイ男が規格外の馬鹿力で大荷物持って歩くのを見てれば、それだけでなんとなく頼りになりそうな気がするかもしれない、と思ってバルドーも呆れた笑いが出てしまった。


次回はまだ戦闘は始まりませんが、その前にいろいろ。

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