15・約束2
セイネリアは感心する、なかなか面白い、そして結構上手い考えだと。よく分からない人間でも価値観が分かればどの程度信用出来そうかは予想出来るものだ。そしてそういう質問なら、答える方も誤魔化さず割合気楽に本音を話してくれる。
「そうだな、俺の場合は、生きている意味を感じる事だ」
それにはステバンが目を丸くする。
「それは……随分難しい答えだな」
「まぁな、確かに難しい」
けれどその後に、ステバンは納得したように僅かに笑った。
「だが、なんとなく分かる気はする。……成程、君が強い訳だ」
実際のところ、セイネリアだってその為にどうすればいいのか分からなくて足掻いている最中だ、それを彼がどう分かったのかは分からない。ただ聞き返して確認なんてしようとも思わない。彼は彼が思った通りの解釈でいい。
「だから君は怠惰な人間が嫌いなんだな」
決して愚かではない男は、だから彼なりに自分に対して正しい理解をしてくれたらしい。
「そんなところだ」
セイネリアが唇を楽し気に曲げる。それを見てステバンが笑った。セイネリアもつられて笑い声を出す。何故だか互いに妙に笑えてしまって、けれどその声は唐突に途切れる。まるで急に思い出したようにステバンは表情から笑みを消して、セイネリアの顔を見て来た。
「第三予備隊がトーラン砦へ行くというのは本当なのか?」
セイネリアはまだ唇だけに笑みを残したまま、何でもない事のように答えた。
「あぁ、そうだ」
「そうか」
彼も笑みを浮かべたが、その後の言葉は続かなかったようでそのまま口を閉じて固まる。セイネリアは少し考えて、今度は意地悪そうに唇を吊り上げてから彼に言ってやった。
「あと一度だ」
「は?」
予想通り、ステバンは訳が分からないというように笑みを引きつらせた。
「俺が砦から帰ってきた時、一度だけ勝負しよう」
「いや……意味か分からないんだが」
セイネリアはわざとそこで喉を鳴らして笑う。益々ステバンの顔が困惑に歪む。
「これから砦へ行くまで、俺はあんたとの勝負はしない。そして砦から帰ってきた時に一度だけ勝負をする。つまりあんたが俺に勝つチャンスはあと一回だけという事だ」
それまで困惑しすぎて呆けていた男は、そこで急に焦り出した。
「え? いや待ってくれ、それは困る、なぜまたそんな事をっ」
セイネリアは笑う、いかにも楽しそうに。
「あんたはその一回のために全力で俺に勝つ方法を考えて鍛えてくれ。俺はそれを楽しみにして砦のオツトメを終わらせてくるさ。……あぁ、試合形式は魔法アリでいいぞ、その方がいろいろやれるだろうからな」
ステバンの顔が困惑から真剣な顔へと変わって行く。それから彼は暫くセイネリアの顔を見ていたかと思うと、ふぅと息を吐いてから、分かった、とだけ言って唇端を緩やかに上げた。
ならもう彼に話す事はない。彼もこれ以上聞かなくてもいいだろう。
セイネリアは彼に手を上げて別れを告げる事にする。
「ではな、約束だ」
「あぁ、約束だ」
彼も笑って手を上げたからセイネリアは彼に背を向けようとして、それから思い出してもう一言だけつけたした。
「……期待してるからな」
「あぁ、必ず、今より強くなっていよう」
やはり彼は自分という人間をかなり理解してくれているらしい。セイネリアはまた片手を一度だけ上げて彼が手を上げ返すのを見ると、そのまま兵舎へと帰った。雨は前より少しだけ強くなっていたが、気分がいいせいか濡れるのも心地よかった。
次からトーラン砦へ向かいます。




