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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十三章:騎士団の章二
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14・約束1

 剣と剣がぶつかる。出来るだけ優位なポジションで、出来るだけ勢いをつけ、剣の根元の力が入る個所で受けたとしてもどうしても力で押し切られる。ここまでの力差があると技術でどうこう出来る問題じゃない。


――やはり、無理か。


 地面にふっとばされて尻もちをついてから、ステバンは近づいてくる男を見上げた。


「いろいろやってるつもりなんだがな」

「あぁ、おかげで俺は楽しませてもらってる」


――楽しませてもらってる、か。褒められてはいるのだろうが、俺に負ける気がしないという事でもあるのだろうな。


 悔しいが、仕方がない。

 ステバンは伸びて来た手を掴んで立ち上がる。こうしてもらうのも何度目だろうか。

 セイネリア・クロッセス――こうして見上げればその立派な体躯だけでも威圧感があって勝てる気がしなくなる。ここまで負けてばかりだと彼の言葉に思わず卑屈な気分になってしまうくらいだ。


「もう一度やるか?」

「いや……少し頭を冷やす」

「そうか」


 こちらが座れば彼はその場で剣を振り始める。ただの訓練であるからそこまで全力ではない筈なのに、振り下ろした時のその剣速は何度見てもぞっとする。彼に殺す気で攻撃されたら、例え装備で『斬れ』はしなくとも刃が体にめり込んで死ぬだろうなと思う。


 彼はかつてバージステ砦に傭兵として参加した事があるそうだから本物の戦場を知っている。実際に命のやりとりをしているから、殺すとなれば躊躇しないだろう。


――戦場、か。


 ステバンはセイネリアから視線を外して、試合をしている連中を見る。

 つい最近、ステバンはセイネリアのいる第三予備隊がトーラン砦へ派遣されるという噂を聞いた。だから今日はそれが本当なのかをこっそり確認してみようとも思っていたのだが……ここへ来て、実際セイネリア以外の第三予備隊の連中の様子を見て聞く必要はないと判断した。


 ただ、ならばこそ、彼がここにいる間に聞いておきたいことがあった。

 だからステバンはセイネリアが一度剣を止めた時に、近くによって小声で聞いてみた。


『今日、宵終わりの鐘が鳴る時間にここへ来れるだろうか? 君に聞きたい事があるんだ』


 セイネリアは暫く黙ってこちらを見たが、何のためだとか理由を聞いてくる事はなく、分かった、と短く了承の返事を返してきた。





 その夜は小雨が降っていたが、寒い時期でもないし、どちらもその程度で風邪を引くようなヤワな人間ではないから別に気にするようなものではなかった。ただ深夜から朝に掛けては強い雨が降るらしいからあまり長居はしない方が良いようだが。


 宵終わりの鐘が鳴る中セイネリアが訓練場へ向かえば、思った通り相手は少し前から待っていたらしく立っている姿が見えた。やはり真面目な男だなとセイネリアは思わず口元を歪める。


「雨の中呼び出してすまない」

「いや構わない。だがまぁ、向うへいくか」


 言ってセイネリアが視線を向けた先は昼間ならサボリ連中がごろごろしている木の下で、ステバンは了承した後にそちらへ向かった。雨もだが、向うの方が目立ないというのもある。


「天気までは考慮していなかった、本当にすまない」

「気にしていない、ただ長居はしないほうがいいな、さっさと本題に入ってくれ」

「あぁ……そうだな」


 訓練場の端は暗いが、建物前のランプ台の明かりと見張り台からの明かりでどうにか顔は見える。真面目な男は酷く緊張した真面目な顔で聞いてきた。


「君にとって、一番大事な事はなんだろうか?」


 その言葉は少々予想外だったから、セイネリアは軽く驚いた。


「唐突だな」


 思わず言えば。


「あぁうん……いや、正直を言うと、俺は君という人間がどうしても分からない。で、そういう時はまずその人間にとって一番大事な事、一番に優先している事っていうのを聞く事にしてる」

「……成程、その人間の価値観を確認するのか」


ステバンとの話は次回まで。

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