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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十三章:騎士団の章二
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9・色街のボス2

「あぁ、このところこっちに来れなくても悪かったな。組織の方に問題はないか」


 セイネリアも笑えば、カリンはその場で頭を下げた。 


「はい、特に問題はありません。多少他から探るような者が来ましたが、ボスの名を出して取り次ぐかと聞けば黙って帰りますから」


――まったく、だから悪名というのは役に立つ。


 雑魚が勝手に恐れてくれるのだから、と鼻で笑って、セイネリアはカリンが勧めてきた椅子に座った。


「お前が女だからとなめた事を言ってきた奴はいなかったか?」

「そうですね。……その、客として私を指名は出来ないのかと……言ってきた者はいましたが」

「そいつはどうした?」

「私はボスのモノですが、と言ったら冗談だと返してきました」

「だろうな」


 笑いながらカリンが用意した酒のグラスに口を付けた。


「それで、どこかキナ臭くなってる場所はあったか?」


 それを聞くと、カリンも顔の笑みを消して仕事の表情になる。彼女には蛮族との戦闘や領主の反乱等、騎士団で兵を出しそうなところがあるかを調べるように言ってあった。


「前のバージステ砦の仕事のような大規模な戦闘があるという話はありませんが、このところトーラン砦によく蛮族がやってくるらしく多少負傷者が出たりもしている、という話があります」

「成程、トーラン砦か。あそこもバージステ砦に並んでよく襲撃を受けるところだな」

「はい、割合頻繁に襲撃を受けるため、砦の者が休みを取れなくて不満が出ているらしいです」


 セイネリアは顎に手を当てて唇だけに笑みを浮かべた。

 トーラン砦はクリュースでは東の端にある砦で、そこまで寒い地域ではないからほぼ一年中蛮族との小競り合いが起きている。バージステ砦のような大規模な襲撃はなく小さな部族がちょっかいを掛けてくるだけが殆どだが、東にある小国群のどれかがバックについていることもあるから馬鹿にも出来ない。


「なら恐らく、我が隊が飛ばされるのはトーラン砦か」


 セイネリアが呟けば、カリンが心配そうに聞いてくる。


「……危険ではありませんか?」

「戦闘はあるだろうからな、当然危険はあるだろ」

「いえ、戦闘が危険というより、私怨絡みなら……戦闘に紛れてボスの命を狙うように指示された者がいるかもしれないのでは?」


 確かにそれは可能性としてある……が、それはセイネリアが一応でも貴族であった場合の話だ。


「それはない、そこまでするほど向うにとっての俺は重要人物ではないからな」

「そうでしょうか?」

「あぁ、向うにとっては所詮ただの平民出の捨て駒の一つだ、そこまでの労力はかけないさ。危険なところへ飛ばして酷い目にあってこい、死ねばなお良しという程度にしか考えてないだろ」


 そう、貴族でもない者に暗殺命令を出すなんて事、彼らのプライドに掛けてもやる訳がない。なにせ彼らとしてはただの平民にそこまでの価値があるなど認めたくないのだから。やるとしたら現地の指揮官に、一番危険な場所へ送って見殺しにしてもいい、と言うくらいだろう。


「それでも、私は心配です」

「そうだな、俺も絶対に大丈夫だとまでは言わない。俺だって運がなければ死ぬ事もある」


 言えばカリンが黙って下を向く。セイネリアはそれに笑ってみせる。


「お前がいれば、ここの連中は路頭に迷わなくて済むだろ」

「ボスの名があるからこそ、上手くやれている部分はあります」

「いや問題ないさ、俺がいなくてもお前なら最終的にはどうにか出来る」


 言って彼女の頭に手を置いてやれば、カリンは泣きそうな顔でこちらを見てくる。


「ご無事で……必ずお帰り下さい」


 普通ならば、こういう時は女を安心させるために嘘でも分かったというところではあるのだろう。けれどセイネリアにとってカリンはただ待たせるだけの女ではなく、後を任せる部下である。だから彼女にはいつでも覚悟はしていてもらわないとならない。


「どれだけ強くても、警戒していても、人間死ぬ時は死ぬ。そしてそこで死ぬなら俺はそれまでの人間だったということだ」

「ボス……」


 カリンが不安そうにこちらを見てくる。セイネリアは笑って彼女に言う。


「だからお前は、いつでも俺が死ぬ覚悟だけはしておけ」


久しぶりにセイネリアのいつものフレーズ。

次回からはまた騎士団内のお話。


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