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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十二章:騎士団の章一
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50・槍の決勝4

「流石に酒くらい奢ってもらってもいいかと思うところだが……ま、そんな暇はなさそうだから別にいらないさ」

「そうなのか?」


 バルドーは不審そうにこちらを見てくる。セイネリアは軽く片手を上げた。


「あぁ、付き添い役の礼だとでも思ってくれ」

「……それも随分いい加減だな。それはそれ、これはこれだろ。俺がいなかったら困ったろお前」

「そうか、釣りを貰ってもいいくらいあんたは儲けられたと思うが」

「……いや、そうでもないぞ。なにせ一番儲かった筈のステバンとの試合はお前に賭けなかったからな」


 言うと同時にバルドーは意味ありげな笑みを浮かべる。

 セイネリアもそこで『こちらが負けると思ったのか?』などとは聞いたりしない。おそらくこの男はセイネリアが勝つだろうと思っていて向うに賭けたのだ。賭けというのは勝ち過ぎると恨みを買う……身内でのものなら特に。今回など特に、全勝すればセイネリアと共謀して何か裏工作をしたのかと疑われる可能性もある。

 だからおそらく、一番倍率が高かっただろうステバンとの試合をわざと負けることで勝ち過ぎのイメージがつかないようにした。さすがに隊の連中に一応まとめ役として認められているだけはあるというところだ。

 だが、ステバンの試合を捨てたというなら――。


「それでも今回は取ったんだろ? 最終的にはかなりのプラスには違いない」


 見方を変えれば、最後の試合で儲けて十分プラスで終わる計算だったから、取れば一番目立つだろうステバンの試合は負けて見せたという事だ。

 バルドーは頭を掻いて、諦めたように吐き捨てた。


「はいはい、分かったよ、お前には稼がせてもらった。それで貸しはナシでいい」


 セイネリアは笑う。バルドーも笑う。

 だが行く先にわざわざこちらを待っていたらしい騎馬の姿を見れば、セイネリアは苦笑して兜を取った。勿論待っていたのはウェイズだ。

 バルドーも分かっているから、彼の馬の横にきて足を止めた。


「お見事でした。完敗です」


 笑顔で言ってきたウェイズに、セイネリアも笑って返した。


「あんたは流石に上手かったな。楽しい勝負だった」

「私もです。今回一番……いえ、唯一の楽しい試合でした。この試合のためだけに来たと思えば嫌な事は全て忘れられます」


 まぁ確かに――そもそも彼が来る事になった理由を考えれば、セイネリアとの試合以外は楽しくなどなかっただろう。


「でも帰って試合の事を話したら、エレッジ隊長にどうして貴方がウチに来るのを了承するまで説得しなかったのかと怒られそうです」

「あんたが怒られる事はないだろ、あんまり言うようなら自分で直接説得しろと言えばいい」

「そんな事を言ったら隊長は本気で貴方を説得にきますよ」

「来てもいいが無駄だぞ」

「……でしょうね」


 ウェイズはクスクスと笑う。

 おそらく、実際はもしそのエレッジ隊長とやらが説得に行くと言い出しても、彼が止めてくれるだろうとセイネリアは思っている。


「ともかく、楽しかったです。それに私もいい勉強になりました。ぜひまた、機会があれば勝負してください」

「あぁ、そうだな。またな」


 それで彼は馬の向きを変えて歩かせる。それが厩舎の方でも、控室のある建物の方でもない事に気づいてセイネリアは疑問に思う。


「どこへ行くんだ?」


 ウェイズは笑顔で振り返った。


「出番が終わればすぐ帰ります。このまま最小限の挨拶回りをして帰り支度ですよ」

「そうか」


 考えればこの平和な国でも前線に当たるバージステ砦で要職を務める彼がいつまでも首都でのんびりしていられる訳がない。だからこそわざわざセイネリアに一声かけるため、こんなところで待っていたのだろう。


 バージステ砦の連中といい、守備隊の連中といい、マトモで使える者もちゃんといるのに上の連中は皆腐っている……そんな騎士団の状況は確かにナスロウ卿(あのジジイ)にとっては腹立たしいモノだったのだろうなとセイネリアは改めて思った。


これで競技会は終了となります。

次回はカリンサイドで後日談的なお話、2話かかるかな。

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