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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十二章:騎士団の章一
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49・槍の決勝3

――やられたな。


 やっぱりあの男は想定外の何かをしてくる。こちらの槍を弾くなんてどんな動体視力だと思うと同時に、向うが最初からマーカーに当てるのは捨てていたことにも呆れる。おそらく、肩に当たったのは運が良かっただけでヘタをするとこちらの体に当たらない可能性もある賭けだった筈だ。


――引き分け狙い? いや、まさか。


 こちらの槍がマーカーを隠しているなら槍に当てればマーカー近くに当たる筈、あの男ならそう思ったのだろう。確かにそうだがやはり賭けには違いない。

 ウェイズは思わず笑ってしまう。

 はは、と声まで出てしまったが、この歓声なら他人に聞こえはしないだろう。

 とにかく今、ウェイズは楽しくて仕方がなかった。


――まったく、無茶をする。


 やはり同じ手は通用しなかった、手堅い手で行こうとした段階で負けだったとウェイズは思う。彼はこちらに勝つために賭けに出た、その度胸の差で負けたのだろう。


 馬上槍に使用する槍は先端が尖っていないランスであるから槍自身の太さがある分当てやすくはあるが、高速ですれ違う一瞬に当てるのは無茶な話だ。しかも揺れる馬上でだ、一か八かだったとしても当てたのだから化け物だ、そうとしかいいようがない。

 ウェイズは馬を宥めて一度止め、体勢を整えてから肩の当たった位置に振れる。


――運が良かったのはこちらの方か。


 馬上槍試合の場合、左肩から胸にかけては通常の全身甲冑の上に補強用の追加装備をつけるのが決まりとなっていた。もし追加装備がないところに当たっていたらと思うとぞっとする。槍が当たった肩にはへこみが出来ていたのだから。

 それでも、良い試合だったと感想はそれだけで、気分にはすがすがしさしかない。


 勝者としてセイネリアの名がコールされる中、ウェイズは馬上で兜を取って抱えると、セイネリアに向けて頭を下げた。






 落馬はなかったものの相手の槍は当たらず、セイネリアの槍がマーカー外だが相手に当たったためセイネリアには1ポイントが入った。ついでにウェイズは規定位置まで行く前に槍を離したので更にセイネリアに1ポイントが加算された。

 別に勝てさえすればポイント数などどうでもいいが、これはウェイズですら槍を手放さねば落馬を免れなかったという事である。だからこれは彼の体に当てた1ポイントよりも意味があると言えなくもない。


 大きな歓声と拍手に見送られてセイネリアは会場を出た。表彰式は他の部門と纏めてこの後改めて行われる事になっていて、そちらは普段の騎士団用装備で出て来いと言う事だ。面倒だが一度着替えてこなくてはならない。


「本気で勝ちやがったよ。二本目が取られたとこで流石に負けると思ったんだがな」


 その声にセイネリアは顔を下に向ける。この競技会では馬上槍試合の場合、入場時は騎乗せず、退場は騎乗したままという決まりだった。だから必然的に今は馬上からバルドーを見下ろす状態になっている。


「そうだな、今までで一番負ける可能性のある試合だった」

「てか、相手の槍を狙うなんてどういう目をしてんだ。お前の事だ、偶然じゃなくて狙ってたんだろ?」


 そう言ってくるならこの男もかなり目がいい、とセイネリアは思う。観客の多くは何故かウェイズの槍が逸れてセイネリアの槍がマーカー外だが当たったらしいとそれくらいしか分からなかった筈だ。


「何、前に狩人まがいの事もしてたからな」

「成程、だから目はいいってとこか」

「まぁな、槍に当たっても向こうの体に当たらない可能性はあったが」

「……おい、それで向うが無理矢理少しでも当ててたら負けてたろ」

「そうだな」


 自信はあったが負ける可能性もあった。だがだからこそ面白い。負ける可能性があるからこそ勝ちに意味がある。逆にいえば勝つと分かっている戦いには意味などない、それはただの作業だ。


「ったく、本当にお前はヤバイ奴だな」

「おかげであんたは稼げたろ?」


 言えばバルドーはちょっと顔を顰めて気まずそうに頭を掻く。とはいえ苦い顔という訳ではなく単にどう返せばいいのか悩んでいるようで、その口元は微妙に笑っているから儲けたのは間違いないだろう。


まぁ無茶な勝ち方ですがそこは物語って事で(==;魔法がある世界のお話ですから、ルールもこちらの世界の中世の馬上槍とは結構違いがあるってことで一つ。

次回はこの流れのままウェイズとの会話があって競技会は終了となります。


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