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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十二章:騎士団の章一
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46・幸運と偶然

 控室の建物前では先に着替えを終らせていたウェイズが、兜だけを手に持ってセイネリアを待っていた。


「まさか本当に貴方と試合が出来るとは思っていませんでした。どんな手をお使いになられたのです?」

「なんのことだ?」


 セイネリアがそう返せば彼は楽しそうに笑って、それからこちらに意味ありげな視線を向けると背筋をただして真面目に発言する。


「いえ、何でもありません。貴方ならこの馬鹿馬鹿しい状況を自力でどうにかしそうな気がしただけです」


 言った直後に彼はまた吹き出すように笑った。彼は今回貴族共の茶番のために呼ばれた筈だから、この状況があまりにも不自然な事は分かっている。そこからすれば、こちらが何かしら手を回したのだと確信しているのだろう。

 彼の様子にセイネリアも軽く笑ってしまったが、その少々浮かれているような彼に今度は抑えた声で聞いてみる。


「それより、俺とは本気でやってくれるんだろ?」


 ウェイズは驚いたように目を丸くする。セイネリアはわざと喉を揺らして笑ってみせてから、彼の顔をじっと見据えた。


「あんたは自分の事をバージステ砦代表とはいえ負けても言い訳が出来る下っ端だと言っていたが、建前上の立場はそうでも実力はそうではないんだろ?」


 今度はとぼけるのは彼の方だった。


「……何の話でしょう?」


 セイネリアはまた軽く喉を揺らしてみせてから、彼から視線をわざと外して今度は平坦な声で言う。


「いくら貴族の馬鹿息子でも、不戦勝や手ごたえがなさすぎる試合ばかりでは本人が不審に思う可能性がある。一つくらいはちゃんとした『いい試合』で勝たせて、しかも相手はそれなりに名のある人物である必要がある。バージステ砦の代表の名なら十分だろう。つまりあんたは最初から勝ちあがってエフィロットに負けるために来ていたのさ」


 言い切ってからちらと彼を見れば、まだ演技を続ける気なのか、彼は肩を竦めてみせた。


「まぁそれは……事情的に仕方ない事ですから」


 とはいえ、彼がとぼけられるのはここまでだ。


「剣はまだしも馬上槍で手加減をするのは難しい。ハンパな腕の奴ではいかにもわざとらしい勝負になるか、ヘタをすれば大怪我だ。だからきっと、砦の中でも実力は確かで、だが対外的に地位は高くない、もしくは一時的に低めの地位の肩書をつけた者が選ばれて来た……違うか?」


 そうして彼の目を見据えれば、さすがにその表情が崩れる。ふぅ、とウェイズは一つ大きく息を吐いて、それからバツが悪そうに視線を泳がせた。


「はは……さすが、貴方はお見通しだったという訳ですね。そうですね、へんな注文がついていない年なら本当に第三部隊の新人を出すのですが、今年はそういう訳にいかなかったので。私の本当の所属は第一部隊です、貴方の言った通り、馬上槍で手を抜いて勝つのも安全に負けるのも慣れない者には難しいですからね。……ですが、どうしてわかったのです?」

「何、状況的にそうだろうと思ったのもあるが、あんたの試合を見て思ったのさ、手の抜き方が上手うますぎるなと。ほどほどの腕に見せかけながら安定して勝つのは難しい、俺もあんたみたく上手く手を抜いて勝とうとしたが出来なかった。あれは相当慣れた奴しかできない芸当だ」


 ウェイズはそこで吹き出して、それから声を上げて楽しそうに笑った。余程面白かったのか暫く笑って、それからやっと笑いが収まってきたところでこちらに向けて深く頭を下げてきた。


「ともかく、次の試合は勿論全力で行きます。今回の競技会、実は貴方の試合を見るのだけが楽しみで自分の試合は気が重いだけだったのですが……最後に、試合自体を楽しむ事が出来ます、思わぬ幸運に感謝しかありません」


 そう言って真っすぐこちらを見てきた男に、セイネリアは鼻で笑って言ってやる。


「俺に感謝をするな、ただの偶然だ」

「そうですね、では慈悲深き我が神に感謝を」


 言って彼はまた改めて胸に手を当てて目を閉じる。どうやら彼もリパ信徒らしい。

 その彼にセイネリアは右手を出した。


「お互い全力で楽しもうじゃないか」

「えぇ、いい試合にしましょう」


 ウェイズはまさに満面の笑顔でその手を握ってきた。


ウェイズは第一部隊で一番若く見える、という理由でこの役に抜擢されたようです。

次回からこの章最後の試合。馬上槍なので剣の試合程長くはならないと思いますが。

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