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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十二章:騎士団の章一
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42・休憩時間

 場内が盛り上がる中、一人青い顔をしている男に聞こえるようにカリンは言った。


「あぁ本当にステバン様がご無事で良かった。地面に倒れたまま動かれなかったの見た時、私、心臓が止まるかと思いました」


 そうすればレンファンもノって応える。


「えぇ本当に恐ろしかったです。ステバン様はもう倒れるところでしたのにそこからあんなに強く蹴り上げるなんて。きっとあの男は相手を痛めつける事を楽しんでいるのでしょう」

「本当に、恐ろしい男なのですね」

「えぇお嬢様、試合でなかったら確実になぶり殺していたことでしょう。きっとわざとポイントを取ろうとしないのも、相手が潰れるまで出来るだけ長く痛めつけるのを楽しむために違いありません」

「あぁ、なんて恐ろしい」


 我ながら少々薄ら寒くはあるが、レンファンのノリにカリンも怯えて見せる。

 ちらと見れば貴族の馬鹿息子はこちらに声を掛けて虚勢を張る気力さえないようで、きっと現状どうしようかと焦っている最中かと思われた。


「それにお嬢様、あの男ですが……最初は抑えていたものの、どうやら試合が進むに従って抑えが利かなくなっているように思われるのです」

「まぁ、それはどういうこと?」

「はい、クォーデン様との試合以降、どんどん勝ち方が残虐になっているのです」

「そうなの?」

「はい、きっと相手を痛めつけているウチに楽しくなって本性が隠しきれなくなっているのでしょう」


 そこでカリンはいかにも心配そうに、今にも泣きそうな顔をつくってエフィロットの顔を見あげた。


「エフィロット様、次の試合では本当にお気を付けてくださいね。相手は獣のように凶暴な男です。しかも試合を重ねるごとに残虐性が増しているという事です。先ほどのステバン様よりも更にエフィロット様が酷い目に合うかもしれません」

「あの男はきっとそのつもりでいます、本当にお気をつけくださいませ」


 カリンが涙声で言えば、レンファンは震えてみせる。なんというか、レンファンのノリにつられてカリンも自分がやけに大袈裟になっているとは自覚しているが、目論見的にはそれで正解であるからいい……かとは思う。

 そして勿論、それを受けたエフィロットの顔は蒼白で、頬の筋肉は引きつるわ、冷や汗が出ているわと、こちらの期待通りに相当怯えた様子を見せてくれていた。

 それでも彼は、一応まだがんばって無理矢理の笑みを作って引きつる唇をどうにか開いた。


「い……いや、大丈夫です、よ。ご、心配せずとも……なにせ試合ですから、神官様方もいますし……それに、平民出の彼が、わ、私にそんな大怪我を追わせれば貴族法で罰せられますからね」


 エフィロットの声はところどころ裏返っている。そこへレンファンが追い打ちをかける、楽しそうに。


「いえいえ、あの男はけだもののような男ですから、理性が飛んで何をするかわかりません。もしかすれば逆に、試合なら事故だといい張れば人殺しさえ出来ると思っている可能性だってありますわ」


 騎士団内競技会では今のところ死者が出た事はないが、競技会というものには事故がつきもので死者が出る事もそこまで珍しくはなかった。そして例え死んだ者が貴族であっても、競技会のルール内においての事故死ならそれで誰かが罰せられた事も今のところはなかった。

 エフィロットの顔は更に強張る。顔は可哀想なくらい青白く、無理矢理笑っていても歯が小刻みに震えているようにも見えた。目だってこちら以上に泣きそうに赤くなって焦点が合っていない。


 そこで試合後、集まって中央で何やら話し合っていたらしい審判役達が動き出し、数人が客席近くまでやってきて声を張り上げた。


「待機神官様が現在治療を行われているため、暫く休憩時間を設けます。次の試合、剣技の部の決勝は真昼の鐘の後に行います。御覧になる皆様は真昼の鐘が鳴るまでご休憩なさってください」


 これは予定通りだとカリンは思う。大怪我をした者が出た場合、待機中の上位神官がその人物の治療に専念する事になる。その間に試合をして命にかかわる怪我をする者が出るとすぐ対応出来ないため、そういう時はその高位神官の手が空くまでは試合は行われない事になっていた。

 それを聞いた、エフィロットは急に立ち上がってこう言って来た。


「試合まで時間が出来ましたので……少し、体を動かしてから試合に臨みたいと思います。貴女がご心配される必要がないよう、ば、万全の状態であの男の前に立たなくてはなりませんから」


 これも予定通りで、カリンは手を胸で組んで期待一杯の瞳を向けて彼を送り出した。


次回から2話はエフィロット視点での茶番劇の続きです。

この辺りはギャグノリで読んでください。ステバンの試合から落差がありますが(==;


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