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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十二章:騎士団の章一
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40・ステバン戦5

「……い、丈夫ですか?」


 声に気付いてステバンは目を大きく開けた。どうやら意識を失っていたらしい。聞いてきた声が待機していたリパ神官のものだと分かった段階で、ステバンは周囲を見渡して神官に聞き返した。


「試合は? 俺は負けたのか?」


 傍にいた神官は二人。ステバンに治癒術を掛けている最中の方は黙っていたが、もう一人の神官は困惑した顔でステバンの上の方へ視線を向けた。


「とりあえず、試合中断の旗があがったので一本目は向うの勝ちです」


 ステバンは上を向く。そこにはこの試合で付き添いをしてくれている守備隊の同僚がいた。


「また、向うが使用していた剣が破損して使えなくなったという事で剣の交換をするため、こちらは今それを待っている状態です。その間に治癒術を掛けて……このまま安静にしたほうがいいと神官様が判断されたら試合放棄を相手に伝えます」

「そうか……ではまだ終わった訳ではないんだな」


 言うと同時にステバンは立ち上がった。


「無理です。神官様も試合はやめた方がいいと……」


 けれどステバンはそれを遮るように、神官達に顔を向けて言った。


「神官様、治癒の術感謝いたします。おかげで体は動きます、試合は続行して良いと告げていただけますでしょうか?」

「ステバン殿っ」


 ステバンは体の様子を確認してみる。あちこち重いが動かす分には問題ない。体力が回復しきっていないのは仕方ないが、それでもきちんと構えは取れる。腕にも足にも力が入る。これならもう一足掻きは出来る筈だ。


 ステバンの言葉を聞いた神官は返事に困っていたが、そこで先ほどまで術を掛けてくれていたもう一人の神官がステバンの顔を見てくる。


「折れてはいないが何か所かヒビは入っていたようだ。1本目の状況を見れば普通ならここは試合を終わらせるべきだと判断する。……だが、貴方が出来るというのなら止めない。ただし大きい怪我を術で治した場合、その治した箇所は通常よりも暫くは脆くなっている。同じ衝撃を受ければ普通よりも簡単に折れる。それは分かっているね?」


 ステバンは笑って胸の上に左手を置いた。


「勿論です。これでも私はリパ信徒ですから」


 そこで神官は分かったと言って立ち上がると、もう一人の神官を連れて審判役の方へと向かった。


――さて、感謝する……べきだろうな。


 苦笑してステバンはセイネリアの方を見る。相手は剣を選んでいる最中で、ステバンの視線に気づいたらしくそこから間もなく剣を決めた。どう考えても、こちらが治療して多少休憩できるだけの時間を稼いでくれたと見ていいだろう。ここまでしてもらってあっさり降参する訳にはいかない。


 ステバンは兜を被る。審判役から声が掛かって続行の意志を確認されたから、それに返事をして試合開始の位置へ向かう。


「すまない、感謝する」

「なんのことだ?」


 その返事には笑って。だがおかげで余分な力も抜けた。ステバンは胸に手を当てて、今度は空を見て大きく深呼吸をする。神に祈りと、それからせめて一太刀――いや、勝つのだと自分に誓う。


 そこで改めて構えれば、二本目の開始が告げられた。

 ステバンはそれと同時に相手に向かう。


 実際受けて見て分かったが、向うの攻撃を受けてからそれに合わせて攻撃しようとするよりこちらから仕掛けたほうがいい。それくらい、向うの攻撃を受ける事自体のリスクが大きい。体力の消耗的には、向うからの攻撃を真正面から受けようなんて思わない方がいい。


 だから当然、こちらの攻撃が受けられても押し合いなんてしてはいけない。


 最初の一撃を受けられてすぐ、ステバンは剣を自ら即離して切り返した。力は向うが上だと分かっていた、けれども想像以上と言われて想定したそれ以上に力差があった。今更ながらにクォーデンの言っていた意味が分かるとは間抜けすぎるなとステバンは思う。

 そうなれば基本的に向うの攻撃は避けるしかない。もしくは受け流すかだ。そこでふいに思い出したのはファンレーンとの試合で、彼女くらい受け流すのが巧ければと思わずにいられなかった。


 とはいえ、無いものを考えても仕方ない。

 自分がまだ全然未熟だとそれが分かっただけだと自嘲して、今出来て一番勝てる可能性のある手に賭けるしかなかった。


 ステバンは攻撃を畳みかけていく。受けられてもすぐに切り返し次の攻撃を繰り出す。一見押してはいるが押し込めていないから相手の足の位置は殆ど下がっていない。

 けれどある一撃の後、相手の体が少し余分に一歩引いた。ステバンは咄嗟に下がる。その目の前を相手の足が通っていく。

 ステバンはそのまま更に下がると一度仕切りなおす事にした。


――危ないな。


 背の高い相手、その長い手足はそれだけで脅威だ。剣の間合いに入れば向うの足はまず届くなんて厄介過ぎる。更には攻撃しようと接近すればその度に足を踏まれそうになって、そちらにも神経を使わないとならないのも地味に厳しい。


――実戦経験者と訓練だけの者の差か。


 なんでもあり、だと分かっているのにまだ『出来るだけ』をし切れていない。勝つために出来る事はまだある筈だった。ステバンは今度は剣先を左下に向けて突っ込んでいく。


次でステバン戦は終わり。


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