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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十二章:騎士団の章一
594/1199

31・槍の準々決勝2

 赤い旗が上がって、拍手が起こる。

 ソーライは自嘲に唇を歪める。これはまぁ仕方がない。向うの方が目が良かったようだと納得する。


「赤、セイネリア・クロッセス、ポイント2」


 胸に当たっていた場合の位置の正確さによる判定勝ちは2ポイント、胸に当たっていなかった場合の判定勝ちは1ポイント、そして相手の落馬による勝ちなら3ポイント。二回戦以降は先に5ポイント以上取るか、3本行った時点でポイントの高い方が勝者となる。

 だからもし次、ソーライが落馬すれば2本目で向うの勝ちが決まるし、そうでなければ3本目が終わった時点のポイント判定になる。


――やはり彼を落すのは厳しいか。


 あれだけマトモに当てて落ちそうな気配さえしなかったのはソーライとしては始めてだった。しかも相当の衝撃だったろうに、馬を引き返して判定する間、向うはダメージをまったく受けていないようで平然としていた。見た目でも予想は出来たが体の方も相当に強い。流石に、冒険者として数々の修羅場をくぐってきただけはあるというところだろう。


――となるとこちらが不利か。


 開始位置に戻りながらソーライは考える。相手の槍はマーカーのほぼ真ん中を正確に当てていた。ソーライの槍も向うの胸に当たっていたがマーカーからは少しずれた。けれどこれくらいのずれなら普通ならまず勝てる、相手の正確さがおかしいだけの話だ。

 これがマグレ……だとは考えない。

 あの落ち着きぶり、ソーライでさえ感じる威圧感、あれはきちんと狙って当てにきたに違いない。互いに落馬しないのであれば正確さが勝負を決める。そして正確さならこちらは向うに勝てないということだ。


 開始位置について槍を受け取れば、暫くして風笛が鳴る。

 ソーライは馬を走らせる。真っすぐこちらに向かってくる相手の姿をじっと見て、槍の柄を持つ手に力を入れる。


――負けるのが確定なら、試すだけの意味はあるか。


 ソーライは槍を突く、少し早めに腕を伸ばす。

 けれど槍を突いた腕へ返って来る手ごたえは微妙に遅れた。しかも思った位置で槍に突かれる衝撃が来ない。それは確かに一瞬、ほんの僅かな感覚の差だが――ソーライはすぐに理解した。理解したと同時に衝撃がくる。しかも重い、先ほどよりも重い。

 

――わざと遅れて突いたのか。


 ソーライは向うより早く突こうとした。しかも相手にとって想定より早く体が動く事でマーカーの位置が動いて狙いずらくするつもりもあった。

 けれど彼は逆に当てるタイミングを遅らせた。腕を余分に引き、ぎりぎりの位置まで近づいてから突く事で、より強い衝撃をこちらに与えてきた。

 だから想定外に重い一撃が来た。

 しかも当たるタイミングを遅らされたせいで、受けようと構えて一番力の入っていた瞬間を外された。これでは耐えられない。


 普通なら先に当てた方が大抵は有利だ。

 だがこの男は当てられても絶対に落ちない自信があった。先に突かれて尚、体勢を崩さず正確に槍を出せる自信があった。だからこちらを落すため、より強い力でこちらを突き落とす事を考えた。


――これは完敗だな。


 ふわりと体が浮く感覚の中、ソーライは歯を噛み締めて口角を上げる。大声で笑いたいくらいの清々しい気持ちで、次にくる衝撃、地面に叩きつけられるその時に備えた。






 ソーライの大きな体が馬上から落ちる。何度か練習をつき合った事があるステバンでさえ、それは始めてみる光景だった。


――これは……勝てないな。


 明日、セイネリアとまず対戦するのはステバンである。だが相手の強さは確実にこちらの上で、万に一つも勝てる可能性はないとしか思えなかった。クォーデンとの剣の戦いを見ただけでも勝てそうな気はしなかったが、今の試合を見ればどうあっても勝てないと思うしかない。


――何故、今回なんだ。


 馬上槍ではここ3年程無敵だったソーライが負けた事で観客たちが口々に興奮の声を上げている。わぁわぁと波のように押し寄せる人の声を遠くに聞いて、ステバンは空を見上げる、そして忌々しげに歯を噛み締めた。


この後から暫くは試合裏というか試合外でのお話。やけに貴族の女性陣が熱心に見ていた理由とか、例の貴族の馬鹿息子の話が出てきます。

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