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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十二章:騎士団の章一
592/1199

29・残念です

 二日目の馬上槍試合は準々決勝だけであるから、全部で4試合しかない。そのためこの競技だけは同時に2会場でやらずに1つの会場で4試合を行う。人気競技の上に2会場に分かれていた客が1つの会場に集まるため客の数は膨れ上がっている筈で、会場から洩れて聞こえる歓声の大きさはセイネリアでさえ思わず、凄いな、と呟く程だった。


「1会場になると一般席は全部立ち見になる。入るだけ入れてるからな」


 馬を引いているバルドーが後ろから上機嫌な声でそう言ってくる。

 セイネリアの試合は次の次で、今は会場へ向かっているところだった。


「今の声からすれば、勝負はついたか」


 わっと膨れ上がる声は、勝負に動きがあった時に上がる。馬上槍試合なら、それは互いがすれ違った時に起こるものだ、更にいえば。


「そうだな、この声から察するに落馬で決着だったんだろうな」


 バルドーも分かったらしくそう返してくる。なにせどちらも落馬しなかったのならすれ違う一瞬の歓声だけですぐにざわめきだけに戻る。その時に誰の目で見ても分かる決着がついている、つまり落馬で決着がついていれば、沸き上がった声はそのまま歓声と拍手に代わる。

 今回は後者で、暫くすると勝者のコールがあったのか、再び拍手が起こった。


「だろうな、落した方が客は盛り上がる」


 いいながらセイネリアはヘルムを被った。


「お前が客の盛りあがりなんか気にするのか?」

「まぁな、その方が連中が焦るだろ?」


 『連中』が誰だか分かったのか、バルドーはため息をついてそれ以上その話を続けてこなかった。

 当てた位置の正確さで決まる判定勝ちより、落馬での決着の方が客には分かりやすく盛り上がるのは当然の事である。だから競技用の壊れる槍とは言っても待機神官がきちんと確保出来ている競技会では槍はそこそこの強度があって落馬を狙い易くなっていた。勿論、今回はそれに当てはまる。ぶつかれば砕けるようにはなっていても、当たれば相当の衝撃が来る。今回の敵なら必ずこちらにも当ててくるだろうからセイネリアも油断すれば負ける可能性は高い。


――そもそも、こっちは経験が浅いしな。


 だからセイネリアも剣に比べればこちらはそこまで自信がない。ただだからこそ楽しみでもある。


「前の試合が始まったか」

「らしいな」


 入場口が見えてくれば、向うから馬に乗った選手がやってきたのが見えた。今終わったばかりの、こちらの前の前の試合の選手だろう。そして、その鎧に見覚えがあったセイネリアは馬上の人物に向けて手を上げた。そうすれば向うの馬はこちらとすれ違う直前に足を止め、馬上の騎士はバイザーを上げた。


「勝ったのだろ?」

「はい、どうにか」


 ウェイズが笑顔でそう答える。前回彼の試合をみたところでは余程の相手でなければ負ける筈がない実力だったし、対戦表からしてもまだ『負けなくてはならない相手』ではなかった。だから勝っていて当然だ。


「貴方が勝つのは分かっていますが、次の試合が見れそうにないのが残念です。それに、貴方と対戦出来そうにないのも。……それでは」


 心底残念そうに言って来た彼は、それで補助役の兵に行ってくれと告げた。セイネリアはそれにまた手を上げてから歩きだした。


「お前、バージステ砦の仕事でもえらく活躍したそうだな」


 ウェイズとある程度距離が離れてからバルドーが声を掛けてくる。


「大きい仕事だったからな、ポイントを稼げるだけ稼いだだけだ」

「……実際砦にいた者からそこまで言われるなんて、どんだけ暴れたんだ」

「俺がナスロウ卿に師事してたってのも大きいのさ」

「あぁ……そうか」


 バージステ砦におけるナスロウ卿の名の意味はバルドーも分かっているらしく、彼は一応それで納得したらしい。ただ、暫く考えた後、彼は独り言のように小さな声で呟いていた。


「ナスロウ卿か……その名はまるで騎士団内でマトモな奴かどうかを判別する魔法の言葉だな」


 それには何も言わなかったが、確かにそうか、とセイネリアも皮肉気に兜の下で笑みを浮かべた。


次はソーライとの試合です。とりあえず1本目。

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