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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十二章:騎士団の章一
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24・飲まれる1

「青、セイネリア・クロッセス。赤、クォーデン・ラグラファン・エデ」


 名前のコールが終わると共に湧き上がる歓声に手をふりながら、クォーデンは自サイドの開始位置まで歩いていった。

 向かいからやってくるセイネリアの方は歓声に手を振ってはいないが、この歓声が殆どこちらに向けたものであるのを考えれば彼が応えたくないのも仕方ないかと思う。

 けれど、そこまで笑みを浮かべていたクォーデンは、顔を上げたセイネリアと目があった途端にその笑みを消した。


――なんだ、この男は。


 彼がここまで真の実力をださずに勝ってきたのは分かっていた。その体から見て体力と筋力は向うが上だろうとも予想出来てはいた。しかもソーライのような単純なパワータイプではなく、実力を隠す狡猾さと、相手の行動を操作するような頭を使える相手だとも、試合ぶりから承知してはいたの……だが。


 彼の方が体が大きいのだから見下ろされる感覚は分かるとして、そこからかかる圧が重い。

 それは、前日の挨拶で感じていた不気味さの比ではなく。

 見上げる高い背はまるで立ちふさがる壁のようで。

 高くから見据えてくる琥珀の瞳に背筋が冷たくなっていく。我知らず一歩踏み出すその足が止まる。目の前に存在するだけで感じるこの威圧感はクォーデンが初めて……いや、駆け出しの冒険者時代、討伐依頼の仕事について行って魔物と対峙した時以来の感覚だった。その時も、思った。


――化け物だ。


 本能が告げる警告。これは自分の想定した動きをしない、得体の知れない危険な敵だと。

 だが今のクォーデンは怖くて逃げだしても済む駆け出し冒険者ではない。あの頃と比べれば確かな経験も実績もある、積み重ねた技がある。それに、今は競技会であって戦場ではない。神官達が待機している、命の危険はない。


――戦う前に負ける訳にはいかない。


 クォーデンは剣を構えた。向うは両手剣、こちらは盾と片手剣、これは殺し合いではなく試合である。それならルール上での勝ちは十分狙える筈だった。

 それを見て、相手もゆっくりと剣を構えた。ただし剣先は下に向けたまま、ただ剣を持っただけという体勢で、両手剣であるなら普通の構えである剣を頭の横に置いた体勢を取らない。


――馬鹿にしてる……訳ではない、挑発か。


 セイネリアがその体勢から動かないのを見て、それで構えたと判断して審判役が手を上げた。


「始めっ」


 ただし向うは動かない。あの構えは攻撃より防御寄りではあるからそれは当然と言えば当然だが、かといってこちらから仕掛けるのも躊躇する。本来なら盾がある分無理が利くから、クォーデンの方が思い切って接近していくところではある。それでも足が動かない、危険を告げる心が足を地面に縫い付ける。


「……なんだ、そっちからこないのか」


 目の前の男が呟いた。

 そう思った時には相手が急に近づいてきていて、クォーデンは思わず盾を上げて前にだした。けれど、間合いに入った途端男の頭が逆に遠ざかる、そう思った次の瞬間、腹に重い痛みが走った。盾の上に見えていた男の顔が消え、代わりに空の青色が目に入る。次に来た衝撃は下半身で、そこでやっとクォーデンは自分が腹を蹴られてふっとばされ、地面に尻もちをついた事を理解した。

 訳が分からず呆然としているクォーデンにどこか楽しそうな声が掛けられる。


「目が覚めたか? まだ降参はしないだろ? 待ってるから立ち上がれ」


 足で蹴って当てた分はポイントにならない。だがここで追撃を掛けられたら負け確定ではある状態だ。クォーデンは空を見て大きく息を吸った。


――まったく……酷い失態をやらかしたものだ。


 それから反動を付けて立ち上がると、体についた汚れをはたいて構えを取る。また一度深呼吸すると盾を前にだして構える。腰を落して今度は慎重に相手に近づいていく。それで相手も構えを取る、今度は普通に顔の横に。

 クォーデンは笑った。どうやら自分はこの若者の持つ空気に完全に飲まれていたらしい。


この試合は次回で決着。いや、既に勝負自体はついてるようなモノですが。


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