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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十二章:騎士団の章一
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15・出場者達1

 セイネリアの予想通り、それから競技会までの間は好奇心で誘ってくる女以外で接触してくる者は特にいなかった。

 こちらの事をよく調べている者は噂をもとに女を使って探りを入れてきていたのかもしれないが、今回競技会に出る連中の大半は今のところはセイネリアの噂を聞いたとしてもその実力は噂程ではないと高を括っているという事だろう。


 頭の悪い人間の特徴の一つとして、真実よりも自分にとって都合のいい話を信じるというのがある。更に騎士団などという内輪の世界にいる人間は、外の事情に疎いからこそそれを軽んじる。身内の優劣に拘って自分が井の中の蛙である事が分からなくなる。外を知らないからこそ自信家でいられる。


――まぁ、馬鹿は痛い目を見ないと馬鹿である事に気づかないからな。


 そう考えてから、考え直す――いや、大馬鹿だと痛い目にあっても何かしらの所為にして自分の失敗を認められないか――と。そして残念な事に、ここでは馬鹿より大馬鹿の方が多そうだった。

 ある意味ここでは伝説のようになっているナスロウ卿でさえ、その実力はもう正しくは伝わってはいないだろうとセイネリアは思っている。かつてのザラッツのように神格化している者か、忌々しさから『言われている程ではなかった』と記憶を改悪していった者のどちらかになって、客観的にあのジジイがどれだけの人物だったかを知る者などもういないと思ったほうがいい。そういう連中はきっと、騎士団というモノに失望してここを去っているだろうからだ。


 とはいえ、出来る人間なら実際のセイネリアを見れば認識を改める――というのは想定していた事で、実際競技会前日の打ち合わせ後で状況は少し変わった。

 全員参加の設営の仕事の途中から競技参加者だけが集められて、当日の説明や注意、立ち位置の合わせ等の一部予行練習的な事が行われたのだが、そこで初めてセイネリアを見た者も多かったらしくそれなりにデキそうな連中はそこでこちらを見る目を変えた。


『あれがナスロウ卿の従者だったという……』

『デカいな、確かに見ただけで噂通りヤバそうだ……』


 ひそひそと囁かれる声はいつも通り無視する。わざわざ声に出してるような奴はどうせマトモな腕と言えるレベルまでの連中だ。未だに馬鹿にした目で見ようとするのはそのレベルにも達してない雑魚で、険しい顔でじっとこちらを見てくるのがそれなりに腕がいい連中というところか。


 ただ、流石に守備隊らしい赤いサーコートを着ている連中は殆どが厳しい目でこちらを見ていた。これなら当日は思ったよりも楽しめそうだとセイネリアは思う。

 更に、その場が解散になった後、その守備隊の連中はセイネリアに話しかけてきた。


「貴殿が前ナスロウ卿に師事していたというセイネリア・クロッセス殿だろうか」

「あぁ、そうだ」

「我が名はソーライ・ウェゼブル、貴殿の噂は聞いている、試合で戦える事を楽しみにしている」

「こちらこそ、楽しみだ」

「いや、突然すまぬな。なにせ予備隊の人間にはこういう時でないとまず会う機会がない。噂はいろいろ聞いていたのだが、貴殿を見て納得した。確かに相当出来そうだ」


 真っ先に話しかけてきたのは赤いサーコート連中の中でも一番年上と見られる男で、体も大きく確かに強そうには見える。いかにも武人らしい豪快な人物という雰囲気だから、おそらくはあまり裏表のない単純な人物と見て良さそうだ。


「私の名はクォーデン・ラグラファン・エデです。対戦する事になったらよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく頼む」


 こちらは物腰の柔らかい育ちの良さそうな男で、多分貴族か金持ちの出だろうと思われた。クォーデンからすれば細身だがそれでも体はきちんと出来ているし、こちらも腕はいいのだろう。

 その後にも二人、サーラ・デリアードという男と、ジェイチェ・ナシェル・クドという男が挨拶してきたが、規律の厳しい守備隊の人間というだけあって皆少なくとも表面上はこちらに対してきちんと礼儀を持って話してきた。

 向うが礼儀を守るならこちらも礼儀を守るべきだとは思っているから、セイネリアも最低限ではあるが一応の礼儀を守った言葉を使うようにはした。


 ちなみに、話しかけてきたものの中に去年の優勝者であるステバンはいなかったが、先ほどの予行練習で彼が前に出て前回優勝者として発言をする説明を受けたからその顔は見る事が出来ていた。また女騎士は二人いたが、『面白い』と言っていたファンレーンは多分、落ち着いて見えた方だろう。


次回はこの続きであいさつにきた連中とのやりとり。

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