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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十二章:騎士団の章一
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8・下見3

「ヤバイのが出るっていわれて結構経つからな、この山にくる連中がいないんだろ」


 バルドーが気楽にそう言ってくる。


「逆にそれならもっと鳥の声がある筈だ。しかもここに上がってからは他に動物がいる気配もない」


 そう返せば、さすがに相手の顔色が変わった。


「全員、ヘルム被れ。装備点検、準備しろ」


 バルドーの指示に兜をしてなかった連中が慌てて兜を被る。

 セイネリアは周囲の気配を探った。


 人が暫く入らない森や山は普通動物達が増えるものだ。なのにこの周辺は動物がいた跡が殆どない。鳥の声は多少あるがそれでも少なすぎる上にどれも遠い。つまり、動物たちはこのあたりを避けているという事になる。となれば思いつく理由は一つ、ここが例のヤバイ何かの縄張りだという事だ。


――思ったより大物かもしれないな。


 他の動物――特に鳥が寄り付かないというなら飛べるか何か特殊能力を持っている奴と考えられる。かといってこんな木が多いところで大鳥やドラゴンのようなものがいるとは思えない。奴らがいるなら木の枝が折り重なって上が蓋をされた状態のままではない筈だった。となれば特殊能力の方で、それだと予め準備のしようがない。


「おい、あれは何だ?」


 誰かが声を上げて、全員の目がそちらに行く。

 セイネリアは声が上がる前にそれを見つけたが、それが何か判別できずにただ凝視する。


 それは白く、長く、輪郭がぼやけていて遠目では一見霧のようにも見えた。けれどそれがへびのようにうねりながら木の間を抜けてこちらに向かってくれば、少なくとも意志のある生物らしいというのが分かる。


「化け物だ……」


 そう呟く声がする。確かにそうとしか形容のしようがない。頭は丸く、目が一つだけついていて、その後ろに細長い白い体が続いている。しかもそれが地面に手足を付けることなく浮いているのをみれば、確かに化け物と言う言葉しか出てこない。


 ただ、セイネリアには多少思い当るものがあった。


 魔法使いケサランにいろいろ聞いた中で、魔法使いの使う魔法の系列についての話があった。大雑把に分けると魔法というのは、植物系、空間系、振動系、暗示系、幻術系、召喚系というのがあって、その中で彼が言っていた――召喚系の魔法は異空間から異形の生き物を召喚してくる魔法で、『生物としてどうみても不自然で体のつくりが理屈にあっていないように見える生き物』がいたら召喚されたものの可能性が高いという事だった。


――確かに生物として作りが不自然だな。


 不自然に大きな頭に目、それを支えられるとは到底思えない不自然に細長い体。それなのにバランスを崩さずふらふら浮いてるなんてどうみても生物としてオカシイ。

 それはゆっくりとこちらに近づいてきていたが、一度止まったかと思えば今まで目だけしか見えなかった顔に口が現れる。それが大きく開かれたところでセイネリアは怒鳴った。


「逃げろっ」


 同時に白い化け物がこちらへ急につっこんでくる。

 かろうじてその場にいた者達は逃げて白い化け物は通り過ぎていったが、少し離れた空中でそれは一旦急停止をかけた。その時、下の方から悲鳴が上がる。まだ斜面を登り切っていない連中が奴をみたのだと思われた。

 途端、化け物の目が下を向いてそちらに向きを変えた。そうして、そのまま下に向かっていく。


 セイネリアは斜面の方に向かった。やはり化け物が向かう先には馬鹿グループの人間が2人いる。だから背負っていた荷物を白い化け物――正確には狙いは化け物というより斜面で固まっている連中の手前だが――に向けて投げた。

 斜面の2人は固まって動けない、白い化け物が口をあけたらしく頭が大きくなる……が、その白い頭にセイネリアの投げた荷物が当たった。悲鳴のような高い音を上げて白い頭が横に吹っ飛ぶ、細長い体がそれに続く。


 セイネリアは口元を歪めると剣を抜いた。

 奴には物理攻撃が効く、それなら斬ればいいだけだ。


 召喚された化け物――なんてものの話を聞いたなら、それはどうすれば倒せるのかとまで聞くのは当然だ。ケサランの話だと召喚したモノは二種類あって、物理攻撃が効くものと効かないものがいるという。どちらも基本的には術に使った媒体か魔法陣を壊せばこの世界に存在出来なくなって消えるが、物理攻撃が効くなら剣でも倒せて、効かない場合は魔法か魔法効果が乗った武器で倒せるという事だった。


「剣を抜け、奴は剣で倒せるぞ」


 セイネリアがもう一度怒鳴る。

 あまりにも見た事のない見た目の化け物にすっかり腰が引けていた連中も、それを聞くと剣を抜いて備えた。


セイネリアの強さを隊の連中に見せるエピソードですが、ついでに召喚系魔法の紹介も兼ねました。魔法に関する話は騎士団の後から詳しく書く事になります。

次回でこいつとの戦闘は終わり。


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