表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の主  作者: 沙々音 凛
第十二章:騎士団の章一
569/1198

6・下見1

 セイネリアが何事もなく馬を引いてくると、例の嫌がらせをしてきていた連中は明らかに悔しそうな顔をした。

 リーダーの男はそれには何も言う事なく、揃ったな、という言葉しか言わなかったが、セイネリアが馬に乗れば軽く笑っていたところからして彼も連中の行動をばかばかしいと思っているのかもしれない。リーダーが指示して嫌がらせをしているというなら隊の全員と敵対する事になるが、そうでないなら気にするものではない。どうせ長続きはしないだろうから、放っておけばいいだけだ。


――それにしても、隊長様は外の仕事にさえついてこないのか。


 指示を出しているのはリーダーと思われる男だけで、隊長もお付きの文官も顔さえ出しはしなかった。そのまま出発するに至れば呆れるしかない。


 今回の目的地であるセル・エギオ村は首都の東で、あまり高くない山の麓にある小さな湖の傍にある村だった。道中は特に問題もなく昼前には村について、調査としてまず村人から話を聞く事が出来た。


 予備隊の仕事として訓練と戦闘派遣以外でのそれなりの大仕事といえば害獣や魔物退治となるのだが、なにせ騎士団に依頼した場合は要請があってから実際行動に出るまでに面倒な事務手続きやらのせいで時間がかかる。普通は冒険者を雇った方が早いため騎士団に依頼として上がってくる事はあまり多くはなかった。

 それでも騎士団が動く事になるのは、緊急性が低くて依頼側に金がない場合と、それが首都周辺の王の直轄地での問題の場合だ。今回はどちらも当てはまるようで、村に入れば貧相な体格の連中ばかりが目についた。


「化け物が出るのはここから小川沿いに北へ行ったところらしい。馬はここに置いて、昼めし食ったら行くぞ」


 とはいえ今回はあくまで下見であるから別に退治してくる必要はないという事だった。村の人間も『デカくて白っぽい動物』と言う程度しか分かってないから、それが何かを見てくるだけでいいらしい。今回の戦力だけで楽に倒せる場合は倒してきてもいいそうだが、少しでも危なそうなら後日きちんと準備をしてから改めて討伐……という流れだそうだ。


「昼めしってここでですか?」

「そうだ」


 そのやりとりの後、周囲からがっかりした空気が流れる。その理由は、直後のやりとりで分かった。


「まぁこの村じゃこっちをもてなすような余裕はないだろ」

「ってか冒険者じゃなく騎士団呼ぶようなとこでご馳走用意して待っててくれっとこなんかねぇよ」

「しっかたねぇ、持ってきたモンだけで済ますか」


 確かに冒険者の仕事で害獣退治に呼ばれた場合、雇い主がちょっとした馳走を用意してくれているというのはよくある話だ。ただ騎士団が呼ばれる場合の事情を考えればそれはほぼあり得ないだろう。


 ちなみに冒険者の場合は討伐が完了するまでその場に滞在する事になるから、街が近いなら宿を取るか、そうでないなら野宿で狩りをして食事の準備をして食べる事になる。だが今回のこちらの仕事はただの下見だからそんな悠長な事はしていられない。出かけ前に渡された保存食だけでさっさと済ませてその日の内に帰る予定となっていた。


 下見と討伐を別々に行う分の手間の方が時間の無駄ではないか――と思うところもあるが、こういうところがいわゆる『お役所仕事』という事なのだろう。冒険者の場合は討伐に失敗して死んでも自己責任で済むが、騎士団員の場合は保証だ損害報告だといろいろ面倒というのも大きい。


「よぉ、少しいいか?」


 特に隊の連中となれ合いたいとも思っていないから一人で離れて食べていたセイネリアだったが、この隊のリーダーらしいと思っていた男がわざわざ近づいてきたから顔を上げた。


「あぁ、構わない」

「そうか、んじゃ失礼するぜ」


 男はセイネリアから少し離れた場所に腰を下ろす。それから包みを取り出して、彼も食事を始めた。


「お前、セイネリア・クロッセスだったか」

「あぁ。俺はあんたの名前を知らないがな」


 それには男は食べる手を止めると、嫌そうな顔でこちらを見てきた。


「俺の名前はバルドーだ。バルドー・ゼッタ。……そういや確かに自己紹介もしてなかったな」

「あぁ、別にしてくれなくても構わないが」

「構わないのかよ!」

「あんた達の中で興味が湧く奴がいたら名前を聞くさ」

「は、どうでもいい奴は名前も聞く必要ないって事かい」

「そうだ」


 バルドーという男はそこで気まずそうに頭を掻く。暫くこちらを見ていたが、セイネリアが顔を向けもしない事で彼も食事を再開した。


この会話シーン自体は次回まで。ですがここから同じ仕事の話の間は面倒だからタイトルは「下見」でいいかなぁ。

会話が終わったら化け物を探しに行きます。そらセイネリアなら見るだけで終わりになる訳が……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ