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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十二章:騎士団の章一
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4・呼び出し

 初日に脅してやったからか、一日たてばセイネリアの噂が騎士団中(とは言ってもおそらく予備隊内だろうが)で広がっていた。


 セイネリア・クロッセス、あいつはヤバイ――と、最初はその程度の噂だったのだが、時間が経つにつれ冒険者時代の実績を調べた連中がいたらしく噂にいろいろ他のエピソードがついていった。

 例えば、樹海から漏れた化け物どもの討伐で大量の化け物に囲まれた中生還した、更にはその時恐怖で逃げようとした人間はあっさり見捨てた、とか。ドラゴン退治や、上級冒険者である事、そしてバージステ砦の戦いで蛮族に捕まった貴族騎士を助けるために一人で蛮族の群れにつっこんで無事救出して帰ってきた等々……そこから師がナスロウ卿らしいという話まで広まれば、すれ違えばこそこそ噂をされる程度の有名人の出来上がりという訳だ。


 とりあえずセイネリアにとっては別にデメリットもないから放置するだけの事ではある。というか噂を聞いて同室の人間達が嫌がったという事で、兵舎は急遽大部屋ではなく二人部屋へ入る事になった。更には誰も同室になりたくないからとその部屋を一人で使えることになって、ある意味これは得をしたと言えなくもなかった。


 とはいえ、出る杭は打たれる、というのはこういう場所ではお約束のようなもので。だらける他隊員を無視して一人黙々と訓練する日々を続けて4日後に、セイネリアは隊長室に呼び出された。


「お前がセイネリア・クロッセスか」

「そうです、初めてお会いします」


 今日は寝ていなかった隊長様は、それが嫌味だという事には気づかなかった。

 とはいえ、最低限の礼儀がある程度の言葉遣いはしているものの我ながらふてぶてしく見えるのだろうなという態度でいたからか、隊長様は酷く不機嫌そうには見えた。ただこちらを見たのは入ってきた時だけで、今は面倒臭そうに爪を弾いたりしているからこうして呼び出して話をする……つまり仕事をしなくてはなくなったこの事態に対して不機嫌なのかもしれない。


「お前は……あー……冒険者の時にいろいろ派手な事をしていたようだが、ここではただの新入りで一番下の立場だ」

「はい、分かっています」


 あっさりそう答えたせいか、向うがちょっと肩透かしをくらったように表情をまぬけに崩す。どういう事だ、と言う顔で文官を見たところからして、隊長様にこの事を進言したのは文官の男なのだろう。

 やはり不機嫌そうな隊長様は、気を取り直すように咳払いをするとまた爪を弾きだした。


「あー……ならばだ、それらしく態度を改めるように」

「それは具体的にはどうしろということでしょう?」

「それは、それ……あー……ブルッグ、任せる」


 まさかここで『真面目に一人だけ訓練をするな』とはいくらなんでも言えるはずがなく、困った(というかもう面倒臭くなったのだろう)隊長様はそう言って隣にいた文官に話を投げた。文官はうんざりした顔をしたものの、セイネリアを見ると言ってくる。


「つまり、目立つような事はせず先輩連の言うことを聞けという事です」


――成程、目立つような、か。


 そのくらいの言い方が精いっぱいだろうなとセイネリアは笑いそうになる。

 騎士団では役職持ちには必ずこうして文官がつく事になっていた。武官なんてのは脳筋系の馬鹿ばかりというのは昔からのお約束で、更に現状は無能な貴族の馬鹿息子ばかりときている。それでもどうにか組織として仕事が回るように作られた制度だそうだが、そのせいもあって予備隊では仕事は全部お付きの文官任せという隊長が殆どという状態……らしい。

 隊長は部屋に篭って昼寝やら趣味やら好き放題で、部隊への指示や報告は文官が取り仕切り、書類仕事も文官に丸投げというのがここでは普通の事だそうだ。予め聞いてはいたが思った以上にそのまますぎて、これはナスロウのジジイが全てに失望しても仕方ないとしか言えなかった。ザラッツの思考の偏りぶりだってこんなのを見ていれば当然だなと言いたくもなるくらいだ。


「特に特別な事はしていません。先輩達ともちゃんと話して了承を取っています」


 これは嘘ではないから、向うもぐっと口ごもる。だから向うが何か言うより先に、続けて今度は隊長に向かってセイネリアは笑顔で言う。


「他に用がなければ訓練に戻ろうと思うのですが」

「う……まぁ、そう、だが。訓練か」

「はい、訓練時間ですので」

「うむ、そうだな……分かった、もういい」


 いくら馬鹿でも訓練時間に真面目に訓練をするなとは流石に言えないだろう。横の文官は溜息をついていたものの何も言ってくることはなく、セイネリアは丁寧にお辞儀をして部屋を去った。


――まぁ、大方隊の連中から一度釘を刺しておいて欲しいとでも言われたか。


 いかにも問題を起こしそうなヤバイのがきたから上から一度脅しをかけておくべき――あたりの事を言われてノせられてその気になって呼び出してはみたものの、上手い言葉が出てこなかったというところだろう。それでもあの無能隊長様なら『呼び出して注意はしておいた』という事で満足するのかもしれないが。


首都の騎士団は、貴族の中でも能力も地位もない人間が集まって運営してる状態なので(==;まぁ酷いと思ってください。

ということで次回もお約束通り、先輩方が直接嫌がらせしてきますが……。


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