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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十二章:騎士団の章一
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0・登録名

 クリュースにおける『騎士』という称号は基本的には騎士試験を受けて合格したものの事を言う。ただしこれはあくまで冒険者に『騎士』という称号を与えてやるための制度であって、『本物の騎士』と呼ばれるのは貴族出身の者だけで、騎士団において役職を与えられるのも『本物の騎士』だけであった。

 自由の国と呼ばれるクリュースではあるが、平民に様々な権利を与える改革を進める時、同時に貴族を優遇する制度も作って貴族達の反発を抑えてきたという面もある。この『本物の騎士』だけが役職持ちになれるというのもその一つだ。


 騎士試験も、騎士としての技能があるものを選別するためというより貴族達を優遇するための制度と言った方がよく、貴族であれば試験を受ける必要なく基礎中の基礎程度の技能とある程度の装備を用意出来れば騎士として認められる。そして平民の場合は、『本物の騎士』の従者となって技能を学んだ後、主から試験を受けていいという許可証を貰わなければ試験自体を受けられない。更に言えば、試験に受かって騎士となれたとしてもある程度の資産と装備が用意出来ないものは3年間騎士団に所属して国のために働く必要があった。


 それだけ聞くと平民が騎士になる事などなんのメリットもないように思えるが、その称号があるかないかで冒険者としての『格』が変わる。信用ポイントが大幅にかさ上げされて、いい仕事を回して貰える。交渉次第では報酬を上げてもらう事も可能だ。だから戦士として登録している者であればまず出来れば騎士の称号が欲しいと思う。……大半は貴族騎士の従者になるアテなどないから諦めるが、運よく貴族騎士と知り合って従者になるか、もしくは許可証を売る貴族騎士もいるから金で許可証を手に入れれば騎士試験が受けられた。


 ただ、試験そのものよりこの許可証の部分もまた貴族を優遇するためのものであったから、試験自体はそこまで難しいものではなかった。なにせ金で許可証を得た者も許可証を出した貴族のメンツを立てて簡単に落とす訳にはいかないからそこまで厳しくする訳にもいかない。筆記試験と、公の場所に出ても恥ずかしくない程度のマナーやらダンス等の試験、あとは模擬戦闘試験で数種類の武器を使って見せるくらいだ。どれも毎回同じことをやらせるから、許可証をくれた騎士に試験内容を直接教わるか、もしくは事前に騎士団で聞けば教えてくれるそうだからまずここで落ちるような者はそもそも試験を受けはしない。

 さすがに模擬戦闘試験ではまともに武器を使えていない者は落とされるそうだが、勝ち負けはあまり問題ではないという事だから騎士になろうというくらいの腕に自信のある者なら問題ない。


 だから当然、セイネリアも騎士試験にすんなり受かって騎士の称号を得る事が出来た。

 とはいえ試験自体は問題なくとも、騎士の正式登録時にはちょっとしたトラブルがあった。


「姓と言われてもないものはない」


 セイネリアの冒険者としての登録名は、ただの『セイネリア』だ。実を言えば冒険者登録時にも姓がないなら適当に付けてくれと言われたのだが、そちらは絶対にそうしなければならないという規則でなかったから名前だけで登録した。


「騎士たるもの、流石に家名なしの名前だけでは恰好がつきません。ないならご自身で付けて下さい」

「それは絶対につけないとならないのか」

「はい、それが規則です、でなければ騎士として登録できません」


 流石にそんな下らない事で騎士になるのを止めたと言う程セイネリアも馬鹿ではない。だから仕方なく考えたのだが。


「なら、クロッセスだ。セイネリア・クロッセス、それで問題ないか」

「分かりました、こちらに署名をお願いいたします」


 クロッセスの意味は黒に属する、もしくは黒い者――という事なら自分に似合っているだろう。ナスロウ卿の跡を継ぐのは断ったが、彼の本名だったその部分だけは貰ってやっても構わないかと、セイネリアは思わず自嘲と共にセイネリアの後にクロッセスの文字を書いた。


 そうして以後、人々の噂話ではセイネリア・クロッセスという名でセイネリアは呼ばれる事になる。


0話なのでこの章のプロローグ的な内容です。


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