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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十一章:冒険者の章八
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135・労いの宴2

「どちらにしろ、あんたは諦めてこの地を救った英雄の辺境領主としてがんばればいい」


 愚痴を言いながらひたすら落ち込んでいく男に笑って言えば、テーブルに頭がつきそうだった彼がイキナリその顔を上げて、酔った勢いでこちらを睨んできた。


「気楽にいうなっ」


 ザラッツの目は完全に据わっている。ただこうしてセイネリアを堂々と睨んで怒鳴ってくるあたり、酒が入ると気が大きくなる方のタイプなのかもしれない。


「いくらザウラが諦めたといっても、今俺がここを出ていく訳にもいかないだろっ。……かといって王から賜った地を放置出来る訳がない、壊滅状態の村々の復興からやらなくてはならない……しかもあそこは普段から蛮族達が普通にやってくる地だぞ……どう考えても貴様が蛮族との交渉を俺がした事にしたからだ……俺なら蛮族どもと上手くつき合っていけると思われたに違いないっ」


 恨みがましく怒鳴り散らしながらだんだんとまた落ち込んでいくザラッツに、セイネリアはそこでわざと棒読みの芝居口調で返してやった。


「そうだな、現状スオートが領主として一人立ちできるまではディエナとあんた――つまりナスロウ夫妻がグローディの領主代理となるべきだろうから、あんたがここを離れるのは難しいだろうな」


 言えばザラッツが言葉に詰まって止まる。

 逆にその横でディエナが嬉しそうに頬を染めて笑う。

 レッキオは何故か拍手をして泣いていた。


「どうせ暫くはナスロウ卿の館への改装は工事は終わらないだろうし、村々の復興は王から相当人も金も援助がくるんだろ? 当分は向うはたまに様子を見に行く程度で人任せでいいんじゃないか? その間にあんたがいなくなってもいいようにこっちの体制を整えておけばいい」


 セイネリアはそれをさも気楽そうに彼に言った。当然酔って気が大きくもなっている男は怒鳴り返してきた。


「あんな問題がありそうな地を人任せにしろというのかっ……というかそもそも誰に任せればいいというんだ、誰だっていい訳ではないんだぞ。それとも責任とって貴様が残ってくれるとでもいうのか?」


 酔って目の据わった男は、それでもちょっと期待を込めるようにこちらを見てきた。

 セイネリアはそれをちらとも見ずに一度自分の杯を空けた後、見せつけるように笑顔を作ってから彼の方を向いた。


「生憎俺もこの後の予定があってな、暫くはただの雇われとしてでもあんたを手伝えない。だが信用出来て、腕もなかなかで、蛮族との交渉も出来る人間なら紹介してやれるぞ」


 それにはザラッツも酔って半開きになっていた目を見開く。

 一気に酔いが覚めたように背筋を伸ばして、急に真顔になって聞いてくる。


「本当……に? いや、貴様がそういう冗談は言わないとは知って……いますが」


 セイネリアはにやりと笑って、周囲で楽しそうに飲んでいる連中を親指で指した。


「腕は俺程じゃないが皆かなり使えるレベルで、蛮族の言葉も使えて蛮族の知り合いがいるのもいるから奴らとの交渉も任せられる。ザウラとスザーナの商人に顔が利く者や、予知で怪しい人間を見分けられる者もいる。信用出来るかどうかは今回の仕事で分かってるだろ、納得出来たら声を掛けてみたらどうだ?」


 それからセイネリア達一行を労うための宴は、一変してザラッツによる部下の勧誘会となる事になった。






 翌日、宴会明けですぐ帰るのは無茶だろうという事で帰りは明日にしていたからか、皆が起きてきたのは昼間近く頃になってからだった。ちなみに相当に飲み過ぎたらしいザラッツがなかなか姿を見せないと思ったら、二日酔いではなく酔った自分の言動に対する自己嫌悪で落ち込んでいるとディエナから聞いた。彼女はもうすっかり彼の妻のつもりで、遠慮なく彼の世話を焼きに行っているようだった。

 その様子を彼女の兄弟も母親も喜んでいるというのはカリンから聞いていた。勿論、グローディ卿もだ。以前のような歳の割りに精力的な様子はなくなったが、心配事がなくなった分体調は回復傾向で、たまに庭に出て孫達の顔を見るくらいは出来るようになっていた。


 一方こちらのメンバーについては、昨夜の酒が残っているのもあるがその後の話の事もあって皆起きて顔を合わせても余り会話も起こらず、各自で考え事をしているような状況だった。

 それならそれで丁度いいかと、セイネリアは外廊下にある椅子で中庭を眺めてぼうっとしているヴィッチェのところへ行って声を掛けた。


「おい、暇そうならやるぞ」

「え?」


 彼女はそれに驚いた後、身構えるようにこちらを見てくる。


「俺の剣を受けてみたいと言ってたろ。今じゃないと次は何時になるか分からないぞ」

「あ……あぁ、そうだったわね」


 それで彼女が気が抜けたような顔をしてきたから、セイネリアはわざと意地が悪そうな口調で言ってやる。


「それとも酔いが残っててまともに剣を振れそうにないか?」

「……ないわよっ」


 ヴィッチェは怒鳴ると急いで立ち上がった。


ヴィッチェと約束してましたからね。次回はヴィッチェとの手合わせかな、一応。

(あー……手合わせシーンありますが戦闘と言える程のシーンではないので)


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